福島の今 ー脱原発フォーラムよりー

発表された「市民がつくる脱原子力政策大綱」 脱原発フォーラム実行委員会HPより

4月13日、原子力市民委員会による原発ゼロ社会への道を目指した「市民が作る脱原子力政策大綱」の発表を記念して開催されたフォーラムに参加した。

たくさんのパネリストによる報告や提言の中、一番心に突き付けられたのは福島で被災した方、また支援を行っている方々からの現実だ。

3年たった今でも・・・人権を守るために

福島原発告訴団団長の武藤類子さんからは、3年経った今でも放射能の影響をどう捉えるか、どう対処するかで家族の間でさえ対立や分断があり、放射能は人体を傷つけるだけでなく、人間関係や地域社会も傷つけ、分断し、人間の尊厳をも脅かすものであるとの訴えがあった。

福島県生協連の佐藤一夫さんからは、被災者のストレスの調査結果が報告された。放射能の不安は続いており、保育園児は帰宅後外遊びをほとんどしないことや、避難するかしないかでこれまで仲の良かったママ友達と疎遠になってしまったというケース、子どものために母子避難を選択したが、いつまで避難しなければならないのか先が見通せないこと、パパが帰る度に子どもと引き離しているような罪悪感を持つなど、いずれも大きなストレスを抱え、そうした親のストレスが子どもにも伝わっているということだった。

JCOの臨界事故を経験した元東海村村長の村上達也さんからは、原発マネーのために、地域の産業構造が原発に依存したものになってしまい、他の産業は衰退し、結果として原発がなければ生きていけない地域になってしまうことが指摘された。

何をすべきか・・・現実に立ち向かう現地の若手研究者たち

福島大学の研究者小山良太さんからは、日本学術会議がまとめた食と農の検査態勢の体系化に関する緊急提言が報告された。風評被害を防ぐための取り組みとして、福島県の米のみが全量検査の対象とされており、県外の米や米以外の農産品は、全量検査の対象となっていない。そのことが、かえって検査対象の地域のものは危険だという風評につながってしまっている。県という単位ではなく拡散の状況というデータを基に、必要と考えられる対象地域を決定すべきである。また、農地一枚ごとの放射性物質分布と「土壌の成分分析マップ」が必要であるが、そうした調査がなされないまま除染区域が決められている。さらに、事故後は土壌からの作物ごとの移行率が収集されてきており、それに吸収抑制対策を組み合わせることで、放射性物質を移行させない農業生産が可能となる。

東京海洋大学の研究者濱田武士さんからは、漁業の復興について提言された。事故後、放射能廃液が海に放水されたうえ、その後も汚染された地下水が海に流出している。度々汚染水の流出が公表されたにも関わらず、安倍総理の「コントロールされている」や「ブロックされている」という政治利用の発言が、国民の海洋汚染への不安を加速させてしまった。本格的操業再開のために試験操業が必要であるが、風評が怖くできないというのが、漁業者の現状である。リスク軽減策を何重にも講じるとともに、消費者と漁業者のコミュニケーションを図っていくしかないということであった。

 とても他人事とは考えられない・・・JAの取り組み

JAグループ福島では、地域資源を活用した再生可能エネルギー事業に取り組むことを大会で決議しているが、JAの全国組織であるJA中央会でも脱原発に向けた取り組みを行っている。副会長の村上光雄さんから、原発事故後、地域で見過ごされてきたエネルギー資源を見直し、特に中国地方では1950年代から使用している小水力発電38施設に加え、新たに太陽光発電の促進、農畜産物からのバイオエタノール生成、家畜排せつ物からのメタンガスの製造を進めていることが紹介された。

人権を奪ってしまった事故

福島の方たちの報告は、東京に住む私たちに、私たちが原発の電気を使っていたという意味で事故の加害者であるという、当事者としての意識の薄さを認識させられるものだった。

これは、沖縄の基地問題について「内地の人はまったく認識していない」ということを以前、沖縄国際大学の前泊氏の講演の際に感じたことと同じだ。

私たちは脱原発のためにできることから始めることはもちろんだが、福島の事故自体のことだけでなく、それ以降今でも続いている人権を奪われた生活を続けている福島の現状を再認識しなければならない。そして、この現状を引き起こすのが、原発であるということも。