性と法律 ~女性が尊厳をもって生きるために~

2014年5月18日 21時14分 | カテゴリー: 人権, 女性, 子ども・教育, 活動報告, 福祉・医療

角田由紀子著 「性と法律」 岩波新書編集部HPより

弁護士として40年近く、女性であることから受ける様々な困難すなわち女性差別と向き合ってこられた角田由紀子さんの講演を聴く機会があった。

日本国憲法は素晴らしい条文だと前置きしながらも、「憲法をはじめとする日本の法律は、女性たちを守ってきたのか。」がテーマである。

貧しい女性たちの実態

25年度版の男女共同参画白書によれば、2012年のデータで、女性労働者のうち、非正規は54.5%(男性20%)。年収300万円以下が66.1%(男性は23.9%)である。男性一般労働者の給与水準を100とすると、女性は70.9である。正規でも73.4。女性の短時間労働者に至っては50.5であり、ここ10年間変化がない。

すなわち、配偶者控除があって働き方を制限しているからではなく、そもそも女性労働者の賃金は低い。

貧困の連鎖

女性の貧困は特に高齢単身世帯、母子世帯で高いが、注目されるようになってきたのは、子どもの貧困が注目されてきたからだ。子どもの相対的貧困率15.7%2009年)。

働いているひとり親の貧困率は54.6%(OECD30か国の平均は21.3%)。特に母子世帯の低所得が目立つ。離婚の際には、その8割で母親が親権者になり、子どもを引き取る。母子世帯の8割の母親が働いているのも日本の特徴だが、就労収入平均は181万円でしかない。

貧困母子世帯に育つ子どもは、現在だけでなく、将来の生活も困難となる可能性が大きい。教育費の負担が大きすぎるのも日本の特徴だが、高等教育からの排除で、将来の職業は限定される。しかも、奨学金を利用したとしても、卒業時にはすでに500万円以上の債務をかかえ、さらに利子もつく。子どもの貧困対策法が、この辺りを解消するものにならなければ、貧困の連鎖は止まらない。

相対的貧困率:税金や保険料を差し引いた実際に使える所得で、すべての世帯の中央値の半分に満たない所得で暮らしている世帯の割合。4人世帯で250万円くらい。 

高齢女性の貧困

阪神淡路大震災で亡くなった高齢者は、女性が男性より1000人多かった。これについては低年金、財産のない高齢女性は安全な家に住むことができなかったためと分析された。 

若い女性の貧困

・貧困の連鎖の結果によるもの

・性差別賃金により企業にピンハネされる、賃金窃盗によるもの。

・女性の就業者は増えているが、不安定な非正規が増えているだけであること。休暇や賞与のない公務員の非正規や、博士号をもった大学の非常勤講師を掛け持ちするワーキングプアが増えている。

・特に技術のない若い女性には、手っ取り早く収入を得られ、「託児つき、住まいつきの職場」としての性風俗産業が生き延びるための手段となっている。本来行政が提供するものが提供されない、手続きに時間がかかる、煩雑さなどで、セーフティーネットの代わりをしている。また、自分の居場所がないことから、居ついてしまう人もいる。  

女性であることが生きることを困難にしている

女性の意思を無視した性行為で妊娠しても、女性は場合によっては堕胎罪で処罰されたり、妊娠したことを隠すことができないのに、妊娠させた相手は、証拠がないと大手を振って逃げられる。妊娠により性風俗産業で働いていた女性は職を失い、仕事をすることが条件で提供されていた住まいも失い、路頭に迷うことになる。なぜか、不利益や苦痛を負うのは女性である。 

働き続けることのできる環境は整っているのか

出産退職者は2005年から2009年では43.9%と前回の調査の37.4%より増加している。その原因として、保育士不足がある。保育士への調査によると給料が安い、仕事量が多い、労働時間が長いという理由で2割が退職を希望している。新型ステルス戦闘機の購入に638億円もかけることができるのに、保育事業にお金を回せないのか。 

女性に対する性暴力が重要視されない社会

1946年の憲法公布により女性も基本的人権を保障された個人となったが、刑法の強姦罪の規定は、1907年に制定されて以来、基本的な改正がなく、相変わらず常に男性の下位に位置づけられ、親しい男性からの性暴力はもちろん、身体的、心理的暴力の対象にされる。

職場や学校でのセクハラは、女性の権利を性的な手段で奪うという点では性暴力であるとともに、働く権利や学ぶ権利の侵害により、結果として女性の生きる権利や人生を奪う。

セクハラに伴うPTSDにより、職場という場所にいることができなくなる上に、セクハラによる損害賠償の認定も低いのが現状だ。 

売買春を含む性風俗産業と女性の人生

売春防止法が売春を性交だけに限定しているため、それを逆手に取り、性交類似行為を「営業」する性風俗産業が次々に生まれた。風営法は、これらの「営業」を「届け出」すれば行えるという合法化する法律だ。北欧では、買う方も罰せられるのが当たり前となっているにもかかわらず、日本では、許容されたもの、あるいは積極的に奨励されたものという誤解が進んでいくであろう。

56兆円規模といわれる日本の性風俗産業の繁栄ぶりからは、どんなに多くに女性が金銭と引き換えに不本意な体験をさせられているのか。女性を金銭で意のままにすることが許される場所が性風俗産業である。

また、ポルノも同様だ。女性が自己決定して出演したのだからと、そこでも人権侵害の救済が拒否され、屈辱を与える行為である公序良俗違反が行われている。大人社会のポルノの蔓延は、10代までもが犠牲となっているリベンジ・ポルノを引き起こしていることと無関係ではない。 

なぜこのような状況が放置されてきたのか

近代法は、社会を公的なものと私的なものに分け、公的な場所には男性しか参加できないとし、私的な場所には女性もいることは許されたが、その中心はあくまで男性であって、女性は男性が許したことしかできない仕組みだった。家父長制度がまさにそれである。

公的な場面とは、政治・経済・法律で、女人禁制の世界だった。そのため、今でもこれらの分野の女性は少ないうえに、女性の意見を平等に取り入れることが少ない。男性が自分に不利になる規則を作ることなどありえない。

憲法が制定されて70年近いが、いまだに社会の基礎にある法は、憲法の規定にかかわらず、男女平等とは言えない。それは、女性を排除するしくみとして作られたからである。 

女性差別が端的に現れるのは経済的な地位であり、経済的な地位の低さは社会的、政治的地位の低さと連動している。問題は、すべてつながっているということだ。

 

この講演会の前に、東京都婦人相談研究会の顧問弁護士である鈴木隆文さんにお聴きした内容が、さらに裏打ちされた講演会であった。支援はもちろん必要だが、もっと根本的なことを変えていかなければ状況は変わらないということだ。