その人をその人らしく支える

講師のささえるクリニック岩見沢 村上智彦氏  ささえるクリニックHPより

6月21日、清瀬訪問看護ステーション管理者連絡会主催の在宅ケアセミナーに参加した。

市内でも在宅医療の必要性が確実に増えているだけでなく、困難事例が多いと聞いており、こうした関係者の連絡会や学習会により、地域医療の連携が着実に進んで行くことが必要だ。

医療の充実が健康につながっているのか

北海道の夕張といえば、財政破たんした自治体として全国的にも有名だが、そこの医療分野の再生を手がけた、現在は岩見沢でささえるクリニックの院長である村上智彦氏。

経歴は薬剤師での勤務経験後、臨床検査技師、医師となったという変わり種だ。

そんな経歴からもあるのか、現在の日本の医療が客観的なデータに基づかない不要な検査や投薬により、莫大な医療費となっていることに疑問を投げかけている。CTを受けると1回で7ミリシーベルト/時の放射線を浴びることになり、年に5回くらい受ければ、白血病のリスクが3倍も高まる。

薬をきちんと飲んでいる人は25%程度しかいない。ましてや、正確に何種類もの薬をのむことを高齢者ができると考えることに無理がある。

長野県がここ数年、男女ともに長寿日本一となっている。各家庭の主婦が研修を受け、2年間の任期で保健補導員として家族や地域の健康指導を実施している。この制度により、ほとんどの主婦がこの研修を受け、その家族を中心に健康増進に向かった結果だ。

すなわち、医療が充実していることが必ずしも健康につながっているわけではなく、むしろ、医療が充実していることがすぐに医療をあてにする、頼り過ぎを生んでいることも考えられる。8割が病院でなくなるという日本の現状がそれを示している。病院に行けば何とかしてくれる、それが病院の、医師の役目であると思っている。しかも、障がいまでも医療に投げている。このままでは、医療現場は疲弊するばかりで、地方都市で医師不足による病院閉鎖が起こるのは当たり前だ。

兵庫県のある地域で小児科医がいなくなる危機に直面した地域の母親たちが、小児科医を守るため、地域医療から小児科をなくさないために、どんな時には様子を見ていても大丈夫なのかを判断するためのガイドブックを作成し、学び合った。その結果、この地域の小児科医は維持どころか増えている。

目指すべき在宅医療とは

在宅医療の目標は、やり残したこと、言い残したこと、食べ残したことを叶えることだ。多ではなく、他の職種との連携がまず必要であり、良かれと思って専門職がやってしまうのではなく、家族全員が少しずつかかわることを進めていく。

特にこれまでの在宅医療を進める中で、日本人の死亡原因第3位の肺炎を防ぐための肺炎球菌ワクチンの接種、誤嚥性肺炎の原因となる歯周病を減らすための口腔ケアを徹底している。普段は介護者がケアをし、定期的に歯科医や歯科衛生士がケアの状態を確認する。この取り組みは、外部者が定期的にチェックすることが、よい緊張感を生み、ほかのケアの充実にもつながっている。

 医療に対する私たちの意識を変える

講演会の後、グループに分かれ講演内容に関連し、現在の自分の立場における課題をテーマにディスカッションを行った。看護師やケアマネージャーという専門職の方が多く、退院後の医療と介護の連携や、困難事例における他の職種を巻き込むためのアプローチ、退院後のイメージができていないケースでは、再び入院になるケースが多いこと、訪問看護師とケアマネージャーの連携、退院時の訪問医療の医師への本人の意向を伝えることや、退院後の生活に家族を巻き込むことのむずかしさなど、現場の切実な声がたくさんあがった。

こうした各グループの課題を受け、さらに村上氏より総括があった。

病院に頼りすぎている市民の意識を変える必要がある。年長世代が浪費する地域は、若い世代が住まないことを夕張は証明した。行政、医療、介護に携わる人たちが核となり、まちづくりをしていく必要がある。支え手として、社会資源の掘り起こし、顔の見えるつながり、ほかの人がどういう役割を果たしているのか知ることが必要。本人に対しては、やりたいことを聴いて周りもかかわりながら支えていく。握手や背中をさすったりすることで、お互いが喜びホルモンであるオキシトシンを出す。介護に正解はない、ベストよりベターを目指す。本人の意向より家族の意向に沿った、退院ではなく転院という社会的入院は、退院までに在宅での暮らし方を家族に提案していくことで減らすことができる。

 

かなり、「荒療治」という感じの提言であるが、全体の意識を変えるにはこれくらいはっきりものをいう人が必要だと感じる。きっと村上氏と同業である医療関係者には疎まれることもあるのではないかと思うが、自ら目指すべき方向に信念を持っていることを感じる。こんな医療関係者が増えてくれれば、医療の業界も、市民も変わっていけるのかもしれない。