立憲主義の視点から自民党憲法草案を考える

2016年2月3日 10時45分 | カテゴリー: 人権, 市民自治, 平和・憲法, 活動報告

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現行憲法 自民党憲法草案

9条:・・・・戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。

これは、自衛は否定していないが、侵略戦争はしないことを意味する。

9条の2:・・・・内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

これは、「武力行使の放棄」の放棄と軍隊保持の明記を意味する。

12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は・・・・又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。

12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は・・・・国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に交易及び公の秩序に反してはならない。

これは、上から目線の説教じみた人権制限だ。

13条:すべて国民は、個人として尊重される。・・・・

3条:全て国民は、人として尊重される。・・・・

これは、個人主義原理の希薄化を示す。

21条:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

21条:①集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

②前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

集会・結社・表現の自由に対する規制の強化といえる。

24条:①婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本とし、相互の協力により、維持されなければならない。

②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等性に立脚して、制定されなければならない。

24条:①家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。

②:現行憲法24条①と同じ

③:現行憲法24条②とほぼ同じ

家族による相互扶助義務の強化と読み取れる。

96条:この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。

100条:この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。

これは、国民の人権を守るための立憲主義の民主主義化のおそれがあることを意味する。人権の保障さえ、多数決で決められるということだ。

97条:この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。 この条文は自民党憲法草案では削除されており、それは人権の歴史性・普遍性・永久性の否定を意味する。
 

98条:内閣総理大臣は・・・特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

99条:

①緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる。

②緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、・・・・当該宣言に係る事態において、・・・・国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、・・・・基本的人権に関する規定は、最大限尊重されなければならない。

これらは、現行憲法にはない、緊急事態に名を借りた権力乱用の危険性を示す。「基本的人権の保障」が保障されるとは限らないことを意味している。

99条:天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

102条:

①全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。

②国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

憲法の意義を捨て去り、立憲主義を希薄化させることを意味する。

神奈川大学の金子匡良氏の立憲主義とは何か、その視点から自民党の憲法草案について考える学習会に参加した。

 

立憲主義とは、憲法を制定し、国家権力の行使を憲法の範囲内に限定し、それにより国家権力を制御するという思想や制度である。

本来の立憲主義

国民が憲法を制定し、国家権力者を拘束するという国民主権型の立憲主義。市民勢力による下からの近代化を成し遂げたアメリカやフランスで採用されている。

外見的立憲主義

国家権力者が憲法を制定し、自分自身を拘束するという君主主権型の立憲主義。市民勢力が弱かったために改革を経ずに上からの近代化を図っていった戦前のドイツや日本で採用されていた。

 

憲法には何が書いてあるのか

人権保障を実現するための手段としての主要な国家機関の組織と権限、民主主義に基づく国家運営が、奉仕することにより立憲主義の目的である「人権の保障」を達成すること

 

立憲主義の価値構造

立憲主義の土台にあるのは、人間の尊厳を前提にした、個人の尊重であり、憲法13条で表現されている。

「すべて国民は、個人として尊重される。」

(すべてには外国籍の人も含んでいるというのが通説。)

「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする。」

個人を尊重するとは、その人の生命・自由・幸福追求を最大限尊重することであると定義している。

 

立憲主義を支えるもの

国民は国家権力者に支配されるが、国家権力者は憲法に支配されるという、法以外のものには支配されないという原理。

しかし、法は人を支配する意思と能力を持たない。そのため、国民の側が法に支配されようとしない権力者を排除する意思を持ち、態度として示さなければならない。

 

 

立憲主義の危機

集団的自衛権の行使容認は、政策的必要性が立憲主義を押し流すことであり、憲法を制定する意味がない。

現行憲法に対する曲解や侮蔑は、憲法に拘束されようという意思の希薄さを示す。

 

自民党憲法草案に見る立憲主義の危機

自民党憲法草案前文:日本国は・・・・国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。日本国民は・・・・和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。

これは、国家権力の正統性の源が不明確になる一方で、「和」や「助け合い」が人権と同列におかれることを意味する。

立憲主義の危機に際し

私たち自身が立憲主義を意識してきたのか、憲法を語り、憲法を活かしてきたのかが問われている。

私たちの中に憲法を根付かせない限り、立憲主義は実現しない。市民レベルでの憲法実践が立憲主義を救う。

憲法の意義は、スイス連邦憲法前文にある以下の言葉に集約されるのではないか。

・・・・自らの自由を用いる者のみが自由であり、国民の強さは弱者の幸福感によって測られることを確信して、この憲法を制定する。

 

自民党憲法草案が、現行憲法との比較により、そもそも憲法とは言えないものであることが明確に理解できた。国の強さとは武力ではなく、個人としての人権をいかに守ることができるのか、ということなのだ。このような局面にある今こそ、私たちが生きていくうえでの根底にあるはずの憲法を、もっと意識し、大切に育てていくことが求められている。