~シティズンシップ教育の取り組みとその可能性~その2

ドイツの市民電力グリンピースエナジーの中心メンバーの若者たち

ドイツの市民電力グリンピースエナジーの中心メンバーの若者たち

現在の政治状況での今回の18歳選挙権をどうとらえるのか、今後、各自治体で活かしていけるか。前号に続き、早稲田大学の坪郷先生の学習会について報告する。

 

★イギリスにおけるシティズンシップ教育

政治学者の提言に基づき、政治的批判力を持つ能動的市民の育成を目標とし、知識・技術価値という政治的リテラシー教育を重視するとともに、ボランティア活動や地域活動など社会参加とともに政治参加の重要性を強調したものとして実践されてきた。

2002年から全国共通カリキュラムとして導入され、公式の指導要領が助言と手引きにとどまり、教育の内容や方法を特定せず、他の法定課目と比較して、学校や教員にかなりの自由裁量の余地を残しているものとなっている。

 

★ドイツの政治教育

戦後政治教育として70年代から大きく変化してきた。政治的判断能力、政治的行動能力、方法的能力の養成や、具体的な論争的なテーマを取り上げる教育が重視され、論争文化が生まれた。

政治教育はデモクラシー教育であり、反省的な歴史教育と密接な関係がある。連邦・州に政治教育センターがあり、政治教育のための教材・資料を作成・提供している。

  • ドイツのジュニア選挙

連邦議会選挙・州議会選挙・欧州議会選挙時に高校で高校生が実践さながらに投票する模擬選挙が実施され、投票日の事前に投票し、実際の選挙の開票時にその結果は公表される。

きっかけは、1999年にテレビのトークショーで政治学者がアメリカの研究滞在時のキッズ投票を紹介したことだ。アメリカのキッズ投票は2009年時点で1万校以上、800万人が参加している。ドイツでも1999年からベルリンで市民団体により運営開始し、2015年までに47回実施、2013年には2200校50万人参加する規模となっている。

 

★日本のこれからの課題と可能性

課題は政治教育と政治的中立性だ。政治教育の重要性は教育基本法第14条で掲げられており、政治的中立性の要請として、学校は特定の政党を支持し、または反対するための政治教育や政治活動をしてはならないとしている。

これまでの学校での政治教育の実態は、政治や選挙の制度や仕組みの知識のみを教える非政治的なものであり、具体的な政治争点を取り上げて、自ら多様な政治的立場からの情報を収集し、批判的に考え、議論を通じて問題解決を行う生徒主体の政治的リテラシー教育は十分に行われなかった。

  • ドイツの政治的中立に関する合意

1970年代に保守派と左派の両方の政治学者が一堂に会する会議において、参加者の政治学者が以下のようにまとめた。

①生徒を期待させる見解をもって圧倒し、自らの判断の獲得を妨げてはならない

②学問と政治において議論のあることは授業においても議論のあるものとして扱わねばならない

③生徒は政治的状況と自らの利害関係を分析し、自分の利害に基づいて所与の政治的状況に影響を与える手段と方法を追求できるようにならなければならない

 

  • 政治的リテラシー教育は参加型の実践教育

日本の政治文化を変える可能性がある。政治的争点を取り上げるシティズンシップ教育を通じて、「政治とは多様な価値や理念に基づく意見の間での論争であり、議論を通じてよりましな解決策としての特定の政策を見出し、選択する政治的妥協の産物である」という見方への転換が必要だ。そのため、自らの判断に基づいて問題解決を図る参加型プロセスを経験することが重要だ。

また、シティズンシップ教育は、初等・中等教育から始まり、高齢者まで及ぶ継続的な市民性教育である。若者が多様な政治参加の中から自ら選択して、政治活動にかかわることが大事だ。また、多様な世代が市民活動や自治体レベルの政策づくりへの市民参加を通じて、単なる知識の獲得にとどまらず、知識・技術・態度という複合的な政治的リテラシーを獲得することだ。

 

  • シティズンシップ教育と学校教育における手法

学校教育すべての教科に問題解決型思考を入れていくこと、アクティブラーニング、グループディスカッションや発表など能動的学習、双方向の授業、対話・議論・論争、課題解決型、合意形成、ブレーンストーミング、ディベート、グループ討論、パネルディスカッション、ワールドカフェと振り返りなどがあげられる。

 

  • ボランティア活動と政治活動

教材作りと教員の研修が必要で、大学や民間団体・NPOによる複数の研修プログラムの開発や教員・大学・NPOなどが協力して教材作りを行うことが望ましい。市民大学や大学の公開講座を通してシティズンシップ教育を行う。

参加型・実践型教育の場として、ボランティア活動や地域活動にとどまらない政治活動の場が必要だ。自治体における政策作りへの参加の拡大や、子ども会議や青年会議で自治体のこども・青年関連予算の審議をするなど、地方自治はデモクラシーの学校となりうる。ただし、手ごたえのある、成果のある参加型教育を行うことが継続のカギを握る。

 

今回の18歳選挙権を子どもたちはもとより、これまで何もと言っていいくらい学んでこなかった私たち大人こそが学ぶきっかけとし、市民力をつけたいところだ。「多様な人たちが暮らしているこの社会では、異論があることが当たり前」だ。どんな場面でも異論を言えるそんな社会をつくるためにも、子どもの時から生涯にわたってシティズンシップ教育が必要なのではないだろう

か。