やまぼうし~そのひとりのための“働きやすい、暮らしやすい”をつくる~

農園芸作業をするユギムラ牧場

農園芸作業をするユギムラ牧場

生活者ネットワークでは、誰もが自分らしく生きられるまちづくりをめざしており、実際にこうした地域づくりに取り組んでいる認定NPOやまぼうしの理事長伊藤氏に現地をご案内いただいた。

1.“やまぼうし”とは

1985年に日野療護園に入居していた重度障がい者の地域活動の場としてまちの八百屋「おちかわ屋」を開店。その後も多くの市民とともに「市民版日野まちづくりマスタープラン」を作成するなど、共にいきるまちづくりに取り組み、2001年にNPO法人化、重度知的障害者生活寮の事業承継に始まり、遊休農地を活用した農あるまちづくりへの障がい者参加事業、日野市との倉沢の里山保全パートナーシップ協定の締結、就労支援事業所、生活・就労支援センター受託、平山台健康・市民支援センター内にベーカリーカフェ、食材加工場など、障がい区分に関係なく、一人ひとりが働き、暮らせることを作りだし、運営している。

 

①.多様な働き方と暮らしの支援

★就労継続支援A&Bの多機能型事業所 ディセントワーク平山台&やまぼうし平山台

健康・市民支援センター内の給食用の調理室を再生したセントラルキッチン

健康・市民支援センター内の給食用の調理室を再生したセントラルキッチン

平山台健康・市民支援センター内のディーセント・ワーク平山台のベーカリー・カフェ

平山台健康・市民支援センター内のディーセント・ワーク平山台のベーカリー・カフェ

廃校になった小学校が健康・市民支援センターとして再生され、そこを市に提供してもらい、給食設備を利用したベーカリーカフェ、食材加工場などの働く場をつくった。

現在、午前は市内の企業向けなどのお弁当300食、午後はグループホーム向けの食事をつくる。このカフェは、近隣の3自治会が市へ要望したことをきっかけに、実現できた。

 

★農園芸作業 体験農園ユギムラ牧場(里山工房くらさわ)

ユギムラ牧場内の手作りの石窯 お昼にはピザを焼いて

ユギムラ牧場内の手作りの石窯 お昼にはピザを焼いて

農にこだわるのは、人もその一員としての生物多様性を守っていかなければ、人間という生物も生きられなくなる

市街化調整区域の農地を地主さんから借り、農業指導をしてもらいながら年間を通して農作物、たい肥を生産し、法人内の事業の食材に利用

 

★就労移行支援 カフェ畑れんげ

 

★グループホーム ののか、げん、つぐみ

ちょっと大きい1軒屋のような感じのグループホーム

ちょっと大きい1軒屋のような感じのグループホーム

施設で生活できるということは、社会への適応力が高いということ。

かつては重度者用は不可能だといわれていたが、実際にやまぼうしのグループホームで生活している一人ひとりが生き生きと暮らしていることから、だれもがそのありかたを認めるところとなった。今後も、支援者が常駐するグループホームでの集団生活だけでなく、支援者が15分程度の距離のところにいるサテライト型での1人暮らしなど、さまざまなスタイルを用意し、独立した暮らしをめざす。また、高齢になっても適切な支援が受けられるように介護制度と障害者施策の統合も必要だ。

 

②.多摩の大学との産官学プラットホームを目指した取り組み

ディーセントワーク平山台のカフェ部門首都大学内のエーコンカフェ

ディーセントワーク平山台のカフェ部門首都大学内のエーコンカフェ

★就労継続支援A型 明星大スターショップス、首都大エーコンカフェ、法政大エッグドーム

場所、光熱費は大学に提供してもらい、カフェ開設のための許可や運営ノウハウを法人が提供

学生や来校者にその分安く、食を提供できる

大学にとっては、フィールドワークの場であり、学生は1食付のボランティアで参加

分野横断的な解決ができる学生を育てることにつなげたい

 

③.商工会・ハローワーク等関係機関のコラボによる重層的ネットワーク

★日野市障害者生活就労支援センター「にこわーく」&「くらしごと」&豊田駅前アンテナショップ「クプリ」

障がい者が作ったものとしてではなく、普通に売れる物をつくる。クプリはセレクトショップ

 

④.NPOと行政との協働

せせらぎ農園 好きなときに作業できる農園 休憩用の小屋も

せせらぎ農園 好きなときに作業できる農園 休憩用の小屋も

里山保全パートナーシップ協定を結び保全している倉沢風の丘農園

里山保全パートナーシップ協定を結び保全している倉沢風の丘農園

★里山倉沢の風の丘、市民の森ふれあいホール&ふれあいの森カフェ

せせらぎ市民農園では、市民が家庭の生ごみを持ち込み、たい肥化している。

 

 

 

★経営状況

事業規模が4億円を超え、一般的には社会福祉法人になるところだが、自由に事業を展開するために、国に課題を提示しやすくするために、あえてNPOという形態のままにしている。就労支援事業や総合生活支援事業は赤字となっており、法人全体でもここ3年間は赤字となっているため、今後の改善が課題。

★新たな事業展開

2009年、スローワールド事業として、多摩地域南部エリアと北海道富良野を結ぶネットワーク事業、コミュニティービジネスと社会資源創出型のケアマネジメントの展開を目的に、障がい者の本格的な働く場と多様な暮らしの場を自前で作り出していくことを目指し、様々な団体・企業との連携を進めていくことを目的として立ち上げられた。

・既存の作業所や施設、空き店舗の活性化

・食の信頼をとり戻すために生産者と消費者との協働を推進し、地産地消を基本にアグリビジネスを本格化する

・耕作放棄地の有効活用を進め、安全な食材を低価格で供給する

・障害者の就労支援事業を軸に地方の生産地と東京を結ぶ

・重度障害者多数雇用事業所をつくり、リタイヤしたシニアをジョブパートナーとして雇用

・コミュニティーの活性化に向け、統廃合された学校をコミュニティーセンターとして再生

・障がい者を含む生活文化活動の展開

また、他の団体とプロジェクトを立ち上げ、高幡台団地の未利用地活用利用計画案を検討している。高齢者・障がい児者・子育て世代など多世代が暮らし、集い、ターミナルケアや訪問循環看護など、医療的ケアもできる拠点を目指している。

★課題

・ボーダー層の方が就職は困難であり、もっと受け皿を増やしていきたい。また、スタッフの確保も一定の待遇をしなければ難しい。福祉分野の公助を市民のボランティアに代えようとしているが、市民はあくまで+αであり、公助の代わりではないはずだ。

・就労継続支援A型はとても増えているが、全国的には平均で月7万円程度の賃金となっており、一日の平均で4時間程度の働き方ということになっている。

・やまぼうしは施設内自己完結型の介護・援助ではなく、地域に根ざし、地域の住民の一人として暮らし、働くこと、まちづくりへの参加も目指している。こうしたことを保障するための権利擁護や後見人のあり方も課題が多い。

★まとめ

やまぼうしのあり方は、私たち生活者ネットワークの考え方ととても近く、こうしたまちづくりを周りの人を巻き込みつつ、自ら進めてきた伊藤さんのパワーには驚くばかりだ。「誰もやらないから、自分でやるしかなかった」という伊藤さんの言葉が印象に残っている。誰にでもできることではないかもしれないが、自分のまちでも取り組めるかもしれないという可能性を感じることができた。