~児童福祉法に「子どもの最善の利益」の視点が明確化~

シンポジストのみなさん

シンポジストのみなさん

この4月から、改正された児童福祉法が施行されます。社会保障審議会児童部会でこの改正に関わった明治学院大学学長で社会学部教授の松原氏をはじめ、厚労省、世田谷区子ども・若者部長、弁護士、NPO、里親など関係者の方々による「改正児童福祉法をどう活かすか」と題したシンポジウムに参加しました。 

(1)主な改正内容

①法律の理念が「子どもの権利条約」に基づく内容に

1947年の制定後初めて、理念にかかわる改正が行われ、子どもの権利条約に基づく子どもの最善の利益を優先することが盛り込まれ、子どもが受け身としての養護から主体的な養育へと位置づけが大きく変わった

②児童相談所の機能強化:特別区、中核市における設置、弁護士の配置

③基礎自治体の虐待防止機能強化:居場所や相談機能としての子育て世代包括支援センター、要保護児童対策機関に専門職の配置

④家庭的な環境での養育を推進:里親支援、施設の小規模化

⑤一時保護された18歳以上の若者への支援を22歳まで継続 

(2)地域子育て支援拠点への期待

居場所、グループ体験の提供、ちょっとした相談から専門的相談まで、虐待親への支援も含む排除ではなく包摂の拠点に、民間が自治体との協働で、担い手の確保・育成、親子の参画、子どもの年齢層の拡大

(3)児童養護施設の小規模化と子どものケア

・愛着形成にとって固有の関係性が前提なら、職員の労働条件や離退職状況の改善が必要

・本部施設のサポートと役割

・在所期間の短縮と恒久的な安定した生活環境:平均3年9か月の在所期間

・児童相談所との関係:虐待のケースで里親には厳しい処分、施設は労基法での改善命令のみ 

(4)里親制度の現状と課題

・数の増加の困難性:血縁重視の社会

・私的養育と社会的養護:私的空間で公的な社会的養護を担う難しさ

・里親支援の重要性:児童相談所は何かあった時だけ来る、責任は重いがサポートなし

・実親との関係調整:里親と実親との児童相談所の仲介のあり方

・里親子関係から養子縁組:里子のまま卒業させるべきか、養子縁組をめざすべきか  

(5)研究・実践の課題

・家族との対決という対応と家族支援という対応の同時性と異時性

・子どもや家族の「声」を聴き、代弁するソーシャルワークの必要性:専門性の確保

・パターナリズムとパートナーシップのバランス

・権威と権力:児童相談所の判断が正しいという社会的認識の確保

・家族支援における行政のかかわりの機能と限界

・社会的養護としての里親の位置づけ

・子育て家庭のイメージ

・虐待対応に関する社会的意識 

(6)子育て支援に関する利用者の意識

・積極的拒否(攻撃、排斥)と消極的拒否(不参加、非協力、ドタキャン)

・消極的拒否への支援の困難さ

・ワンストップ体制がない場合の煩雑性

・利用者に対する地域の意識:あそこに行くようになったらダメと思われないような拠点に 

(7)制度を支えるために

・システムはワーカーが働きやすい環境整備こそ重要:自らのキャリアパスを見いだせない中で働き続けることは難しい

・エビデンスの研究:事例に逃げがち

・子どもの力、家族の力への信頼 

(8)弁護士、子どもの虐待対応や里親会など民間での実践者からの課題の指摘

・子どもの権利の本質の理解(子どもの意見の尊重、意見の聴き方、実態の伝え方)

・虐待としつけとの区別の明確化(体罰は支配の関係を形成)

・子どもに障がいがあると認められると里親には預けられない現状

・施設では規則の中で生活するため、選択する力をつけることが難しい:家庭での養育の必要性、施設での一時保護の間は学校に行かせることができない 

(9)世田谷区における取組

・子ども条例の設置:あえて「権利」ということばを使わない

・子どもの人権擁護機関「せたホッと」の設置:子どもサポート、オンブズパーソン機能

・ネウボラの実施:妊娠期からの相談支援、子育てサービス利用権の配布、産後ケアセンター

・子ども家庭支援センター:虐待対応、相談、地域の子育て支援のネットワーク化

・児童養護施設退所者支援:住居、居場所、給付型奨学金(年最高36万円、基金+寄付)

子ども・若者育成支援推進法に続き、子どもの権利が法に明確に位置づけられた意義は大きい。

私たち大人がその本質を理解し、子どもの育つ力を信じ支えることができる地域になりたい。