~子どもたちの置かれている現状と必要な支援~

 

講師の土屋佳子さんと

スクールソーシャルワーカーの役割の重要性が注目されている。清瀬市では非常勤1名に加え、常勤1名を配置している。しかし、この体制では抱えきれないほどのケースを受け持っており、こうした役割の社会における評価を高め、確立を図っていく必要がある。

不登校生徒の家庭教師をきっかけにこの世界に飛び込み、20年近くこの役割の制度化を自治体などに働きかけてきた、現在、都立高校自立支援チーム統括スーパーバイザーも担う社会福祉士の土屋佳子さんの講演を紹介する。

 

★ソーシャルワークの国際的な定義と位置づけ

〇社会変革と社会開発、社会的結束および人々のエンパワメントと解放を促進する実践に基づいた専門職であり、学問

〇社会主義、人権、集団的責任および多様性尊重の諸原則は、ソーシャルワークの中核をなす

〇ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学および地域・民族固有の知を基盤とし、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々や様々な構造に働きかける

 

★ソーシャルワーカーの役割

〇高齢者支援、子ども支援、障害者支援、低所得者支援、地域支援、入院患者支援など

 

★スクールソーシャルワークとは

〇子どもたちが日々の生活の中で出会ういろいろな困難を子どもの側に立って解決するためのサポートシステムで、欧米では100年以上の歴史があるが、日本では2008年から導入

〇個々人の価値・権利、人と環境との相互作用・影響を重視し、関係性に着目

〇直接支援と間接支援(ささえる)で校内体制づくりへの関与と関係機関との連携(つなぐ)ネットワークの形成と社会資源の創出(つくる)

〇アセスメント・プランニング・実行・評価とモニタリング、ケース会議の開催(みんなでテーブルを囲み考える)、多面的な視点(見立て)・新たな気づきの提供

 

★スクールソーシャルワーカーの仕事

〇実践領域は子ども本人・家族のミクロレベルから、メゾレベルとして地域、マクロレベルとしての制度や政策が位置付けられる

〇パートナーシップ(中立性)、子どもの可能性に注目、子どもの最善の利益の最優先、自己決定の支持、集団守秘義務、強みを見出し、生かしていけるように力づけること

〇役割は、虐待・非行・貧困などの専門家の判断が必要だが、他者との連携が必須となる当事者本人は利用を希望しない介入サービスと位置づけられる 

 

★スクールソーシャルワーカーの配置形態

〇配置校型:配置された学校の一員として教職員と連携して活動

〇拠点校型:特定の学校区の中の学校を拠点として定期巡回などにより活動

〇派遣型:市町村教育委員会に所属し、学校の要請に応じて活動(清瀬市はこの形態)

それぞれメリット・デメリットがあり、現時点で一つの型に統一することは難しい

 

★スクールソーシャルワーカーの仕事の実際

〇ミクロからメゾ

・直接面談、家庭訪問(不登校・ひきこもり)校内ケース会議への協働参加(企画・書類作成等)

・就学指導委員会・要保護児童対策地域協議会・自立支援部会等への参加

・特別支援巡回相談事業との連携(同行訪問)、療養グループへの支援

・虐待・非行(警察や児童相談所、家庭裁判所とのやりとりなど)、専門的な技術を要するケースへの対応と助言

〇メゾからマクロ

・家族関係調整(親の就労⇒ハローワークへのつなぎ、親の疾患⇒病院への情報提供や同行、きょうだい支援⇒若者サポートステーションへの同行など)

・障がいサービス(手帳の取得等)へのつなぎ

・グループワーク、研修会等の開催(児童生徒・保護者・教職員向け)法定研修

・居場所づくり(不登校児の居場所、親の会、被災者同士のコミュニティサロンづくり)

・広域的対応(転出入・被災等)、居場所不明児童生徒情報の申し送り

・職能団体への参画、研修会の企画・実施(啓発活動)

・大学や養成機関、学術団体、研究者との連携

 

★子どもたちの置かれている現状 以下のいくつかの要素が絡み合っていることが多い

〇親の抱える課題:生活困窮(リストラ、非正規雇用、ひとり親、ステップファミリー)、児童虐待・ハラスメント(DV、ジェンダー、大人のいじめ)、親のメンタルヘルス(精神疾患、発達障害)、子育て不安(情報化)、多文化共生

〇子どもに現れる課題:不登校、中退、ひきこもり、発達障害、思春期危機(心理的に大きく傷つき適切に対応できない場合、心理的な発達が阻害され回復に長く時間がかかる場合がある)、いじめ、ハラスメント(SNS)、部活動・学校事故、塾での多忙

 

★スクールソーシャルワーカーとしての切れ目のない支援

ストレングスとエンパワメント(強みを見出し、力を引き出す)の視点、遊びの実体験の蓄積、キャリア教育の再定義による進路指導、第3の居場所から生まれるコミュニティの多様性をキーワードとして、

〇小学校入学前:妊娠期からの支援が必要であり、乳幼児には発達面でのアプローチだけでなく、保護者の生活面、経済面にも目を向ける

〇小中学校:子ども・保護者への支援だけでなく、教師支援の視点を持つ

〇高校以降:中退防止とアフターフォロー、キャンパスソーシャルワーカーの導入

 

わたしたちが地域の支援者として求められる視点

〇子どもの権利条約の4つの柱(生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利)

〇見守り、劇的改善ではなく「いつのまにか」をめざす、それぞれができることを重ねていく

〇立派な支援者ではなく、地域の生活者としてのささやかな楽しみや安心感の体現をめざす

 

スクールソーシャルワーカーの幅広い連携に驚くばかりだが、こうした専門家が地域にいることは、今後わたしたちが住みたい地域をつくっていくうえで大きな力になることは間違いない。