市民と議員の条例づくり交流会議~議選監査制度と議会、新公会計制度と決算審査~

1日目のシンポジウム

市民発の条例づくりをめざし、ここ10年はその前提となる議会のあり方について検討を重ねてきた市民と議員の条例づくり交流会議の夏企画が7月29日・30日法政大学にて開催された。

全国の自治体議会の運営に関する実態調査からは、2016年12月末現在の状況と10年間の傾向が報告された。議会基本条例は都道府県を含め44.6%の議会が制定しているものの、そのうち運用実績の評価を行い、結果を公表している議会は13.1%、議員間討議の実施は22.1%、首長の反問の行使は14.8%、代表者会議・全員協議会の公開は17.1%と、今後も基本条例で目指すところを実体化していく必要性がうかがえる。

 

議選監査制度と議会―「住民自治」にとっての「監査」と題し、地方制度調査会委員として監査委員制度についての検討に関わった山梨学院大学江藤俊昭教授による基調講演が行われた。

監査制度が2つの意味で転換期を迎えている。地方自治法の改正における制度自体の改革と議会改革の第2ステージとしてだ。特に制度自体の改革については、議選監査委員(議会から選任される監査委員)制度の選択制が注目される。

現行法においても議会の監視機能の充実・強化を図ることは可能だ。飯田市や会津若松市など、監視機能と政策提言の連動を図っている議会がある。そして議会には検査・監査請求、調査(視察を含む)、決算認定、予算の議決などの権限が与えられている。さらに、守秘義務を負いつつも、執行機関に対する監視機能として位置付けられてきたのが、議選監査委員制度だ。

監査機能の充実強化を目的とする中で廃止できるように改正されたのは、この制度の中立性や専門性の欠如、任期の短さ、首長との癒着の可能性など、長い間指摘されている課題が多くの議会において解消されていないからだ。

ただし、制度の廃止が選択される場合には、実地検査権を議会に付与することや、監査委員の担い手の充実、近隣自治体との共同設置も含めた監査事務局の充実が必要だ。

一方、存続の場合でも、担い手の選出基準の見直しや監査委員の参考人招致による連携など本来の制度の活用が求められる。

この講演を受け、福岡市監査事務局馬場伸一さん、東村山市議会議長・元監査委員伊藤真一さん、所沢市議会前議長・元監査委員桑畠健也さんがシンポジストとして議選監査委員について、それぞれの体験に基づく考えを紹介した。

馬場さんからは、「議選監査委員は一定の独立性を求められながらも執行機関の一部という矛盾した立場にあることからも廃止していい。」

伊藤さんからは、「議選監査委員の廃止は、二元代表制における監視機能の一部を奪われることを意味する。」

桑畠さんからは、「現在の制度でも地域の事情に詳しい議員だからこそ、相当なことができるはずだ。」

そもそも議選監査委員制度は議会のチェック機能の1つであり、現行法にある多様な監視機能を活用し、議会として監視機能を高め、政策提言に結び付けて行く姿勢こそが住民に求められている。議会改革の第2ステージとしても、議会力アップの観点から議選監査委員の役割について、さらに監査制度全般について各議会における議論が期待される。

 

2日目は、第1分科会「新公会計制度と決算審査」、第2分科会「シチズンシップ教育と議会」、第3分科会「議会基本条例を改めて学ぶ」と3つのテーマで議論された。

参加した第1分科会では、地方監査会計技能士で習志野市会計管理者の宮澤正泰氏より講演があった。

2日目の分科会

新公会計制度の導入は、統一基準による自治体間の比較可能性を確保しながら、自治体の資産の大部分を占める公共施設の老朽化の状況を、固定資産台帳の整備、複式簿記の導入により把握し、管理することを最大の目的としている。

複式簿記は、取引を2つの面から記録し、5つの要素で分類し、結果として貸借対照表や損益計算書が作成される。新公会計制度ではこれを活用し、財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書)を作成する。これに加え、注記、附属明細書も作成することとなっており、もともと作成されていた決算カードも加え、より詳細な財務分析が可能となる。分析指標としては、「財務書類等の活用の手引き」として総務省から紹介されているが、資産老朽化比率や将来世代負担比率、1人当たり負債額などあげられる。

また、「今後の新地方公会計の推進に関する実務研究会」で紹介した、習志野市発祥の「バランスシート探検隊」が全国に広がっている。

習志野市では、千葉大学と協働し、学生や高校生と一緒にバランスシートを読み解くという趣旨で2011年度から3か年実施した。数字の情報だけでなく、施設の役割の学習や施設見学も実施し、「資産を実感することができた」、「利用状況など確認でき、より理解が深まった」などの感想を得ている。また、耐用年数と実際の資産の状況が異なるものもあり、職員にとってもバランスシートだけでの資産価値の判断をすることの危険性にも気づけることにつながった。さらに、この取り組みは、今後の個別の施設の更新などを検討する上で、住民と一緒に考えるモデル事業と位置付けられた。

決算、予算に活用する例としては、建物などの資産を保有する場合、建設費だけでなく、その3倍といわれる建設後必要となる修繕費、取り壊し費用、施設運営のための事業費、人件費、借入金の利息まで含めたフルコスト情報があげられる。

さらに、施設ごとにかかるコストを把握できれば、施設ごとの管理も可能となり、次の予算に具体的に反映することができる。議員も複式簿記を理解し、新公会計制度による財務書類の活用を進めていくことで、決算の活用による予算への反映が進むはずだ。

 

当日は若者の政治参加を進める活動をしている団体も参加しました

第2分科会では、政治的中立性の担保という指摘からなかなか進みにくくなっているシチズンシップ教育だが、ディスカッション中心の授業を進めている都立高島高校公民科の大畑教諭の授業に参加している生徒からは、政治の場面で使われている言葉が理解できないとの指摘もあったが、授業を重ねる中で、政治への関心だけでなく、自分の意見を持ち、発表することができるようになったとの報告や、大畑教諭からは、議会にも出前授業などをしてほしいことや、どの教科でもシチズンシップ教育ができるなどの提案もあった。

 

第3分科会では、議会基本条例の実行計画を策定している大津市議会で、住民自治を実現するためのツールとしての議会を目標に、議会活動の説明責任、議会の見える化を進める中で議員が成功体験を重ね、住民は自分事として市政への参加を進めていることが報告された。