働き方改革~生活時間を取り戻す~

東京・生活者ネットワーク新春の集いにて

「長時間労働問題を裏側から見る」早稲田大学法学学術院教授朝倉むつ子さんの講演を紹介します。

 

1.労働時間を規制する根拠

①働く人の健康と生命の保持のため

24時間を3分割するという考え方 8時間は仕事、次の8時間は休息、残りは自分がしたいことのため 1919年ILO第1号条約週48時間労働制

②ワーク・ライフ・バランスのため

1960年代のヨーロッパ 週40時間労働制(週休2日)「土曜日のパパは僕のもの」

③ワークシェアリングのため

1980年代長引く不況、失業率の高騰 週35時間労働の労働協約 雇用創出

 

2.日本の労働時間政策

①1911年の工場法

女性と15歳未満の年少者を対象 就業時間を1日12時間に制限

②1947年の労働基準法(罰則なし)

すべての労働者を対象 1日8時間 週48時間労働

女性・年少者は時間外労働制限 1日2時間週6時間年間150時間⇒均等法施行に伴い撤廃

成人男子は36協定による同意を要件に上限規制なく時間外・休日労働を認める

③1987年労働基準法改正以降

1日8時間 週40時間

弾力的労働時間制度の導入―変形労働時間制の拡大、フレックスタイム制、専門業務型の裁量労働制「時間規制の多様化」:実質規制なし

 

3.労働時間規制立法の類型

・労働時間を規制する立法政策の2類型

①直接規制型―労働時間を直接規制する(フランスなど)

②間接規制型―時間外労働に割増賃金を課すことによって労働時間を規制する(アメリカなど)

日本は労働協定+割増賃金 運用はアメリカ型

 

4.長時間労働の実態

パートタイム労働者が増えているにもかかわらず、一般労働者の総実労働時間は減っていない

 

5.働き方改革とは

(1)安倍政権のちぐはぐな労働政策

・女性活躍推進法制定と派遣法改正・高度プロフェッショナル制度導入のため労基法改正

・男女間の「同一価値労働同一賃金」ではなく、正規/非正規間の「同一労働同一賃金」

(2)経済優先の働き方改革

「働き方改革実行計画」におけるその意義:生産性の向上、労働生産性の改善、出生率の改善

(3)働き方改革に欠落しているもの

働く人の視点(人権、ディーセントワーク)、ジェンダー格差の要因分析、検討プロセス

 

6.働き方改革による長時間労働の規制

(1)何のための労働時間短縮か

当初は健康、ワーク・ライフ・バランス⇒電通過労死自死事件後、過労死緊急対策が中心に

(2)時間外労働の上限規制

36協定により100時間/月の過労死ラインまで罰則なく時間外労働を命じうる

 

7.生活時間を取り戻そう

(1)労働時間短縮問題は労働組合だけの問題ではない

・長時間労働で奪われているのは生活時間:育児休業3週間vs8か月

・労働時間に対する国民の意識を変革しよう

・時短意識が希薄なのは誰か?:残業60時間超えはほぼ男性 6歳未満児のいる家庭の男性家事育児時間67分=ケアレスマンモデル=働けない人の排除につながる考え方

 

(2)生活時間アプローチの基本コンセプト

①時間の公共的性格:自己啓発、余暇、ケア時間、地域活動 社会を持続可能なものにするため不可欠 長時間労働は職場問題にとどまらない国民全体の重要課題

②時間外労働の時間清算原則 奪われた時間は金銭でなく時間で清算(賃金単価は上げて)

③労働時間のモニタリング:罰則付きで労働時間を遵守させる(地域の事業所の事業主行動計画の遂行状況について生活時間を使って公共的活動をしている団体がチェックするなど)

 

「生活時間を奪われている」という考え方は、女性の方がピンとくる人が多いのではないでしょうか。

 “ケアレスマン”という言葉には「ケアに責任を持たない人」という意味も含まれるそうです。「生活時間を他人に使わせている」という自覚をもつことが必要なようです。

また、「仕事の範囲」に対する考え方が海外に比べ広いことも労働時間の管理が必要な要因ということです。

朝倉先生もメンバーの「かえせ☆生活時間プロジェクト」のHPもご参照ください。「働き方改革」は他人事ではなく自分事。