アベノミクスはアベコベノミクス:アベノミクス失敗ごまかし解散~大沢真理氏~
「生活保障システムとガバナンス」東京大学社会科学研究所の大沢真理氏の講演会に参加した。
「データで見る日本の税・社会保障システム」というそんな副題も浮かぶ、データという根拠に基づく説得力のある内容だった。
2013年に始まった社会保障制度改革国民会議では、「男性稼ぎ主」モデルから、男女がともに働き、家事もする「21世紀日本モデル」への転換を図ったはずだが、財政健全化に終始し、社会保障機能強化の方向性が希薄なものとなった。
日本の税・社会保障制度は「逆機能」すなわち、働くことや産み育てることが社会・経済政策により「罰」を受けるという超不合理に陥っている。
生きにくい国ニッポン
●自殺率
・女性は韓国に次ぎ2位、男性は8位(2009年、統計が取れる諸国におけるもの)。数では男性が多く、雇用、所得やその格差との相関関係が強い。
●出生率
・2012年の民主党政権時代に1.4を上回ったものの、世界最低クラス。人口が一定なる日本の人口置換水準は2.07であり、1.5を切った国で回復した国はない。結婚や出産について、人々の希望が実らないための少子化。正規か非正規かの雇用形態が収入、社会保障・サービスの適用、企業内の両立支援策の適用などを左右する。
●共稼ぎ貧困
・働くひとり親の貧困率は54%とOECD諸国で断然に最悪。
・相対的貧困層の39%が共稼ぎ、就業者なし世帯は17.3%(OECD平均はそれぞれ17%と37.3%)。すなわち、女性の所得が低いため共稼ぎでも貧困。一人暮らし高齢女性の半数が貧困。最近では非正規婚カップルが増え、さらに男性の所得も低下し、貧困が悪化。
・女性の活躍度が高いと県民所得は高く、若い女性が集まる。女性議員がいない地方は、消滅する。
・OECD諸国の中で賃金が低下し続け、賃金に比例した社会保障がないのは日本だけ。安倍政権では15か月連続、実質賃金指数がマイナス。
・小泉政権と第1次、第2次安倍政権の時に、非正規化が男女ともに加速し、率も伸び続けている。
・貧困率の高い社会は非営利・協働セクターの基盤である、他人や社会への信頼感が低く、日本人の他人への信頼感はOECD諸国で最低。
分配の劣化
●低所得層が社会の多数派
・給与所得者の85%を占める年収700万未満の低所得層の負担が増大。
●再分配機能に問題
・2010年の給与収入の分布は1989年と同じだが、税率構造は累進緩和がされたままであるため、所得再分配機能は低下。
・社会保険料負担の逆進性。
・国民の私的負担を含む福祉の負担は高いにも関わらず、貧困率は削減されていない。
●現役世帯で全員就業すると貧困削減率はマイナス
・たいていの国では就業している方が、就業を支援する制度により貧困削減率は高いが、日本では働いていない世帯の方が貧困を削減してもらえる。
・日本の専業主婦世帯の負担率は、国際的にみて低い。
財政危機の原因は、過大な歳出ではない
高所得者、資産家、法人への減税により歳入を放棄したため。消費税の軽減税率は、せめて国際的水準の15%を超えてから、議論すべき。
何をすべきか
●貧困の連鎖を断ち切り、逆機能する税・社会保障制度から脱却することが必要。
・正規・非正規の待遇格差の解消(非正規の企業の社会保障負担を正規と同様に)
・児童手当などの拡充と給付つき税額控除の導入
・教育への財政支出を増やす⇒税・社会保障を負担できる大人を増やす
・財政支出が非効率。配偶者控除の廃止もその手段(6000億円歳入増に)
これまで「支出する負担としての税金、社会保障費、負担のマイナスとしての控除や給付を含めて考えることが、負担全体を考えるうえで必要だ」と漠然と思っていたことが、データによる明快な分析に納得するとともに、痛快なものの言いにすっきりした講演会であった。
非正規労働が増えたことだけでも、企業負担が減っているだけでなく、さまざまな控除を外さないまま、税率自体も下げている、あきらかな大企業優遇であることが理解できた。これ以上騙され続けると、貧困率は下がるはずもなく、低所得層が増えるばかりで、社会への信頼感が乏しい状態が続き、高所得者や大企業にとっても良い状況を生まないことは言うまでもない。