貧困の連鎖をくいとめるために 「ホッとホーム てのひら」

このアパートの一室に「ホッとホーム てのひら」が

川口さんと杉村さんを囲んで生活者ネットワークの仲間と

静岡県静岡市の家族向けアパートの1室。入ると、なんだかほっとする空間があった。

社会福祉士の川口さんは、独立型の社会福祉士として活動している。全国的にもまだ数えるほどしかいないそうだ。川口さんは静岡市のスクールソーシャルワーカーとして収入を得ながら、自宅にこどもと家庭の相談室『寺子屋おーぷん・どあ』を、さらにこのアパートの1室を借り、十分な養育環境が保障されていない貧困家庭の子どもに生活体験と学びの機会を提供する『ホッとホーム てのひら』を運営している。

児童養護施設の職員だった川口さんは、日々施設に入ってくる子どもたちをみていて、待っているだけではこの状況は変わらない、子どもたちが施設に入らなくて済むようにするにはどうしたらよいかを考えるようになったという。『寺子屋おーぷん・どあ』でも虐待や非行、摂食障害に悩むお子さんと家族に関わってきた。被虐待児や被暴力女性を一時保護するシェルターの役割もしている。

「あらゆるサービスはたった一人のために」というたった一人でも救えればいい、たくさんの人を・・・と思わなくていい、その代わり、そのたった一人を長期的に支える、これが川口さんのモットーだ。

『ホッとホーム てのひら』では週に1回、ナイトサービスを実施。地域の大学生も「子どもサポーター」としてボランティアで支える。宿題をして、夕食の食材を買いに行き、作り、食べる。そのあとは、カードゲームをしたり・・・という家族団らんも、すべてスタッフがかかわることで生活全般を支える。そんなこと、普段していることじゃない!と思うかもしれない。でも、できない家庭もある。最近では2人のお子さんを預かっている。また、ここは日中、社会の中に浮遊する非行系の少年たちの居場所にもなっている。 

川口さんは、「生きる力」をつけるためには、自己選択、自己決定、自己表現が必要だと考えている。そのためには子どもたちが、自分に関心を寄せ支援してくれる大人がいると思うことで他者に対する信頼感をもち、自己肯定感を向上することが欠かせない。この川口さんたちの支えは、子どもたちの「将来にわたる心の支えになる」と感じた。

財政面では、今年度は県の社会福祉協議会の助成金を得られたということだが、今後の見通しは立っていないとのこと。借りているアパートは、本来家族向けで、こういう事業に使うことはあまり歓迎されないのが世の常かと思うが、ここの大家さんは川口さんの活動を知って快く貸してくださったとのことだった。アパートの壁面に描かれている気球の絵をみて納得! 

視察した私たちも、人を包み込んでくれる雰囲気の川口さんと、当日一緒に対応して下さったスタッフの杉村さんのやさしさにすっかりくつろぎ、帰る時間を忘れるほどだった。お二人とも、とても自然体で、「必要だと思うからやっているだけ」という“草の根”的なこの活動、続けていくにはお金も必要だが、「地域で支え合う」という気持ちがたくさんの人に広がっていくことが一番必要だと感じた。 

それにしても、現場の方の発することばは、いつもながらずっしりと心に残る。

子どもたちが好きな漫画や本、おもちゃが用意されています

 

見ただけでにこっとしてしまうお風呂場

河原で拾った石で子どもたちが作ったお正月用の飾りが玄関に