~学校教育はいま~ 試される自治体の良識と力量(その1)
教育改革国民会議委員や中央教育審議会委員を歴任された共栄大学教授で社会教育学が専門の藤田英典さんの講演を聴いた。
●学校教育のこれまで
1960年代後半の学歴主義・受験戦争・詰め込み教育の弊害
1970年代から受験苦自殺、校内暴力、いじめ、不登校、少年犯罪
を課題と捉え、1980年教育界主導で「ゆとり教育」を開始したが、その後は、以下のような政治主導の改革が進められてきた。
1984年 |
中高一貫校、学校選択制 |
格差化 |
1992年 |
学校5日制 |
学力 |
2000年 |
教育改革国民会議 |
心の統制 |
2002年 |
学力重視政策への転換 |
学力 |
2006年 |
教育基本法改定(個人の尊厳、機会均等の軽視) |
心の統制 |
2007年 |
全国学力テスト開始 |
学力 |
2008年 |
授業時数・教育内容の増加、 小学校英語・中学校武道必修化 |
学力・心の統制 |
2012年 |
社会の期待に応える教育改革の推進 |
学力・格差化 |
2013年 |
自民党「教育再生実行本部」「教育再
|
学力・格差化・心の統制 |
2002年の「教育改革国民会議報告」を受け、文部科学省から「21世紀教育新生プラン」が出された(国民会議委員の中で藤田さん一人が改革に反対)。
●ゆがんだ危機のとらえ方と政治主導の改革である「21世紀教育新生プラン」
課題①いじめ・不登校・校内暴力、学級崩壊、少年犯罪→放置できない問題と位置づける=改革推進を心情的・道義的に正当化
課題②個人の尊重を強調し、公を軽視する傾向がある→愛国心や規範意識を教科書により学ばせる=心・思想の統制
課題③行き過ぎた平等主義による子どもの個性・能力に応じた教育の軽視→能力主義・新自由主義的制度改革(学校選択制、公立中高一貫)=経済格差による教育格差の拡大
課題④これまでの教育システムが時代や社会の進展に取り残されつつある→改革の強権的推進を正当化
ここで提示された改革は、学歴主義・受験戦争・詰め込み教育の是正に有効でも適切でもないばかりでなく、②と③は矛盾していると藤田さんは指摘。
●中1ギャップ? いじめ・不登校、校内暴力のデータに見る現状
・いじめは、小2・小3ではやや多いが、小5はやや少なくなり、小6は著しく少ない、中1が最も多いが、いじめ自殺は中2が多い。→小学校では上級学年の自覚化、成長効果
安全・安心の確保は最も重要な学校の役割であり、もちろん豊かな学びの大前提である。
・不登校は、小5・小6は著しく少なく、中1もやや少なく、中2が多い→小学校では上級学年の自覚化、成長効果があるものの、中学校では負の中学校文化効果(部活動などの集団圧力、受験競争圧力、思春期でどう見られ、集団の中でどういう位置にいるのか気になり、常にストレスにさらされている)⇒都市部の施設一体型の大規模な小中一貫校は、小5・小6の委縮や疎外、いじめ・不登校の増加を招く恐れがある
・学校内外の暴力行為の発生率は、2014年では小学校で増加傾向が見られたが、小学校1.6%に対し、中学校11%、高校2.3%と相変わらず中学校で多いことに変化はない。
少年犯罪は英米独仏とも日本の5倍以上、強盗も15倍以上でその傾向は40年以上変化しておらず、日本の評価は高い。アメリカは殺人・強盗について日本をモデルに減らしてきている。
●PISAの学力観と全国学力調査の学力観
・新しい学力観(PISA):総合的な探究学習による活用学力(特別活動や部活動も)
・古典的学力観(全国学力調査・TIMSS):教科知識の系統的な習得学習
異なるタイプのテストに関わらず、いずれの結果も上位国はほとんど変わらないうえ、人口1億人以上で上位5か国に入っているのは日本のみという圧倒的卓越性。
しかし、日本の教師は53時間/週と世界一の長時間労働(世界平均38時間)で、極めて自己効力感が低い→学力政策の迷走、管理統制の強化、教師バッシングの帰結の可能性
・「古典的学力」と「新しい学力」のコアに違いはない→学び、考えることが重要
・学力・学習・教育の基本はいずれも変わらない
・努力せず力がつくことはない
・全ての子どもがハッピーな夢と誇りを育むことのできる教育が重要→多様な物差し、名誉の等価性、称賛の文化→個人の尊厳を前提に、努力と称賛の文化を豊かにしていくことが重要
OECDは日本をモデルに学校のしくみを変えようとしている。もっと自信を持っていいはずだが、多くの教師はできていないと思わされてきたのだ。