子どもの貧困と「食」格差 政策は何をできるか

発表者の皆さん

発表者の皆さん

「貧困学を立ち上げる」公開シンポジウムシリーズ第1弾として

国・都の子どもの貧困の調査研究に関わってこられた首都大学東京教授の阿部彩さんが各分野の研究者に呼びかけ開催された。

 

★子どもの栄養格差

新潟県立大学人間生活学部の村山伸子さんから、子どもの栄養格差について報告された。

 

世帯の経済状態と子どもの食事との関係

○世帯収入が少ない世帯の児童は、

・毎日朝食を食べない子が多い

・野菜の摂取頻度が少なく、魚や肉の加工品、インスタント麺を食べることが多い

・休日には収入による栄養素の摂取差が見られたが、学校給食がある平日ではみられなかった。

○世帯収入が少ない世帯の保護者は

・食物を入手できなかった頻度が高く、子どもの健康や発達への影響に不安を感じたり、実際に影響が表れているという人が多いが、食事についての知識を持つ人が少ない

・経済的だけでなく、時間的ゆとりがないと感じ、地域の人を信用できるという人が少ない

 

見えてくる課題

・栄養格差は子どもの成長、健康状態への影響があり、自立して健康的な食事をする生活経験が乏しいだけでなく、将来的にも子どもの健康への影響があり、健康的な食事をするスキルが低いことが考えられる。

・この負の連鎖を断ち切るためには、必要な栄養の確保と、自立に必要な食生活の基本スキルの習得が必要

そのための具体的な政策提言

・食料の支給、保育所への入所による給食の提供、学校の完全給食の実施率の向上、学校の夏休み等の食事提供

 

子どもの貧困対策推進法

○財政力の乏しい地域に貧困家庭が多い→国の関与が必要

○ひとり親家庭・多子世帯等自立応援プロジェクト

・学習力・生活力をつける

・平成31年度までに中学校給食の実施率を学校数で90%、生徒数で85%にあげる

 

★乳幼児栄養調査

厚生労働省栄養専門官の日名子まきさんから、10年ごとに実施されている国民生活基礎調査の平成27年度乳幼児栄養調査(対象6歳未満)を社会経済的要因から分析した結果が報告された。

・今回初めて社会経済的要因(経済的な暮らし向き、時間のゆとりなど)と乳幼児の食生活に関する実態が調査された。特に、経済的な暮らし向きにおいては有意な差がみられた。ゆとりがないと答えた世帯では、バランスの良い食事に欠かせない、魚、大豆製品、野菜、果物の摂取頻度が低い傾向が見られた。

・また、乳児へのミルク提供は市町村の義務となっているが、実施していない自治体が増えている。

 

★子どもの体格格差と社会経済要因

日本医科大学 公衆衛生学部助教の可知悠子さんからは、2001年生まれの子どもの追跡調査の結果から、体格格差について報告された。

○昭和52年から調査されている結果から

・子どもの肥満は高止まりの状態となっている。一方、子どもの痩せは増加傾向となっている。

・思春期の肥満の8割は大人の肥満につながり、生活習慣病の合併症を起こすことにつながり、自己評価が低い傾向がある。

・成人の肥満治療の効果は、減量維持が難しく、減量しても心血管疾患による死亡率は変わらない。

・思春期のやせは、心の問題からくることが多く、特に出産におけるリスクが高くなり、早産・低体重児出産につながる。

・欧米では親の社会経済的地位が低いほど、その子どもが肥満である可能性が高くなるとの研究が多数報告されている。

・日本では国民生活基礎調査によると、学童期には相関関係があまり見られないが、青年期になると同じ相関関係がみられる。また、母親の体型や、エネルギー摂取量との相関関係もみられた。

・2008年のリーマンショック後、低所得世帯で肥満リスクが増大、特にリーマンショック前より所得が30%減少した世帯で、肥満リスクが顕著になっている。ストレスが食生活や運動習慣に影響しているのではないかと思われる。

・女子中学生では、低所得世帯でBMIが高い傾向がみられた。朝食抜きが大きな要因ではないかと考えられる。→学校で朝食を提供することが有効ではないか

 

社会経済状況の肥満への影響として考えられる要因

世帯所得、家計消費→食品へのアクセス

教育歴→知識、信念(健康意識)

職業階層→生活習慣、価値観、喫煙率

 

・低所得の場合、比較的高価な野菜、たんぱく質の摂取が少ない

 

体格格差対策としての給食の役割

○ハイリスクアプローチ リスクの高い人に個別に働きかける 例:特定保健指導

○ポピュレーションアプローチ 集団に働きかけ全体的な状態を向上させる 例:普及啓発

 

・ハイリスクアプローチは差別を生む可能性 支援対象とする「貧困」の線引きも難しい=1円でも違えば支援の対象とならない

ただし、知識提供型のポピュレーションアプローチは健康格差を広げる可能性がある

例:学校だより「子どもの肥満予防に脂ものを控えてください」脂質摂取がもともと少ない家庭では、野菜を多めにとなるが、摂取のもともと多い家庭では、今月の家賃の方が重要で肥満予防は二の次となってしまう

 

・環境改善型のポピュレーションアプローチ 例:学区内のファーストフード店の開業を禁止します

 

・知識提供型のポピュレーションアプローチは個人に責任を求める健康づくり

・環境改善型のポピュレーションアプローチは社会環境の整備による健康づくり

 

給食は環境改善型のポピュレーションアプローチ

・全員が対象、知識ではなく体験学習

・家庭の職環境による野菜・果物の摂取格差を緩和

・私立小・中学校、高校は給食実施率が低い

・政令指定都市の実施率が低い

 

★学校給食と子どもの貧困

跡見学園女子大学の鴈咲子さんからの報告

・公立中学校で完全給食が実施されていないのは政令指定都市に多い

一部で実施されていてもミルクのみ

 

・中学校給食の実施率が低い理由:未納の督促の対応

未納の理由:未納世帯のうち3割は、生活保護や就学援助の受給対象でありながら申請を行っていない可能性

 

子どもの学習費(一人当たり年間)文科省平成26年度子どもの学習費調査より

・塾以外で中学生約17万円(学校給食費には完全給食が実施されていない学校の給食費も含んでいる)

学校給食費38,422円、制服代など33,094円、部活動費32,468円、図書・学用品・実習材料費24,645円、修学旅行・遠足・見学費22,918円、PTA会費・学級費12,055円

→未納世帯は、申請の煩雑さや申請自体への抵抗感があり申請していない世帯もあるため、就学援助制度の活用を推奨する必要

 

韓国ソウル市の給食:欠食対策として開始

・給食実施率(2003年から)

小学校100%、中学校99%、高校99%、特別支援学校97%

夏休み期間もデリバリー、学校、食堂で実施

日本でも休み期間中の学童保育で給食を提供する自治体もある

・無料化の状況(2014年)

小学校94%、中学校76%

・日本でも小さな町村で給食費の無料化が多い→知り合いが役所に多く、就学援助などの申請に生きにくい→給食の現物給付

 

今回のシンポジウムでは、相対的な貧困が子どもの栄養格差、体格格差や体格格差、将来にわたっての健康格差につながることがデータに基づき報告された。子どもの人権にかかわる問題であることが示されたといえるのではないか。投資などではなく、憲法で保障されるべき必要最低限の権利である。

さらに、この格差の解消への有効な手法として、完全給食の実施が提案された。東京は小学校、中学校の完全給食の実施率は高く、清瀬市においても実施している。ただし、夏休みの提供や無料化など、まだ不足していることはたくさんある。食育の一環として位置づけられているはずの給食だが、食がもたらす影響を改めてとらえ直す必要があるのではないか。