~世界一着陸が難しい空港になる 羽田~

羽田空港は、現在4本の滑走路で発着回数は年間45万回。来年3月には、都心上空の新ルートの運用で、年間6万回である国際線の発着回数を9.9万回に増やす予定となっています。

これまでは、滑走路が短い羽田は国際線でも短距離に限定し、長距離は成田とされてきたはずです。そのうえ、現在の「海から入って海から出る」ルートから、世界にも類を見ない人口密集地の上空を降りてくるという計画になっています。しかも、その進入角度が世界一難しい、3.5度となることが8月に示されました。

これらの問題点について、航空評論家で元JAL機長の杉江弘さんにお話を伺いました。

新飛行経路(国土交通省「羽田のこれから」)より

1.騒音

着陸時の進入角度が世界標準の3.0度から3.5度とされたのは騒音対策が理由である。これにより品川区大井町付近で305メートルだったものが335メートルと高度はやや高くなり、最大で80デシベルになると国は説明している。これまでより、0.2~0.4デシベル低くなると計算されるが、そもそも人間の耳には4デシベル以上変わらないと変化がわからない。

しかも、国際機関の調査によれば、進入角度をあげても騒音値が低くなるというデータはない。エンジン音は重さやフラップ(動翼)の角度で異なるだけでなく、そのときの風や気温によりエンジンの出力を調整するため、出力をあげれば音も大きくなり、80デシベルをはるかに超える。

 

 

2.落下物

部品の脱落だけでなく、着陸態勢に入る際、脚を出す時やフラップを出す時、氷の塊が落ちることがある。これまでは海に落ちていたため、あまり問題になっていなかったと考えられる。

国は、各航空会社に落下物をなくすための点検整備を求めるといっている。しかし、「落下物はあってあたりまえ」という考え方が世界標準ということもあり、整備の義務化は不可能。しかも、整備士が不足しており、そのために現在でも便数を調整しているくらいだ。

こうしたことからも「都心の空港は使わない」という考え方が世界標準となっている。

 

3.着陸時の事故の可能性

パイロットの訓練は、安全性と騒音の兼ね合いから決められた進入角度「3.0度」で行われており、例外的にフランクフルトの3.2度があるくらいで、3.5度はジェットコースター並みの急降下だ。そのため、着陸時には3.5度で急降下し、滑走路近くで機首を上げる。このフレアーと呼ばれる操作のタイミングはかなりの技量を必要とするため、しりもち事故の可能性が高くなる。

さらに、適切な着陸操作ができず地面にたたきつけられるハードランディングにつながり、中でも主車輪と前輪が同時にドカンと着く3点着陸による胴体のひび割れが発生する可能性が高まる。

かつて最も着陸が難しかった香港の(旧)啓徳空港線には、訓練後、認定を受けないと乗務できないことになっていたが、それでも進入角度は3.1度だった。

そのため、ハイテク機による3.5度の設定での操縦が多くなるのではと考えられるが、ハイテク機は複雑なため、データ入力のミスやモードの切り替え時などにコンピュータの暴走やバードストライクによるセンサーの故障などが原因と考えられる、パイロットにもコントロール不能な状況による事故が起きているのが現状だ。

 

すでに成田と山手線の所要時間は約40分となっている今、訪日客の利便性のための羽田の国際線増便というのも疑問です。しかも、海外でも空港は郊外にあるのが当たり前になっています。ちなみに、着陸のために脚を出すのは都庁の上空あたりだそうです。住んでいる人にとっても、乗っている人にとっても安全な運行ができなくなれば、むしろマイナスなのでは。なぜ、こんな危険を冒してまで羽田での増便を進めるのか・・・理解不能です。