~シティズンシップ教育の取り組みとその可能性~その1
今夏の参議院選挙から18歳選挙権が実現することとなった。今後、各自治体で活かしていけるか、現在の政治状況での今回の18歳選挙権をどうとらえるのか。早稲田大学の坪郷先生の学習会について報告する。
★日本におけるシティズンシップ教育(市民性教育)
- 18歳選挙権の導入とシティズンシップ教育
世界的には選挙権は18歳あるいは16歳であり、被選挙権も1970年代から18歳である。
日本では、憲法改正と選挙権年齢が関連付けられ、2007年、第一次安倍政権時に、国民投票法が成立、2014年国民投票法の投票年齢、2015年公職選挙法の選挙権年齢が共に18歳となった。
- 主権者教育として総務省・文部科学省による副読本「私たちが拓く日本の未来―有権者として求められる力を身につけるために」
NPOや若い世代もかかわり作成され、高校生全員に配布された。討論やディベートで政策論争、模擬選挙、模擬議会、学校における政治的中立性の確保などが入っているが、かなり限定的なものと言わざるを得ない。また、日本の選挙制度は規制が多すぎるため、公職選挙法の抜本的な改正も必要であり、学校というよりも教育委員会の政治的中立性の方が問題だ。
- 主権者教育、シティズンシップ教育の背景
投票率の低下やグローバル化、新たな貧困や非正規雇用の増大などの格差社会、憂慮すべきポピュリズム政治の傾向や政治家不信・政治不信、デモクラシーなどに関する多くの課題がある。
シティズンシップ教育は、ボランティア活動や社会活動のみならず、政治活動に焦点を当て、具体的な論争的テーマを取り上げ、討論や論争を実践していくことが必要だ。
- 政治の場は多様
政治参加は選挙のみならず、公共政策づくりから街頭デモへの参加まで広範囲に及び、市区町村では、計画策定や政策作りに多様な市民参加として、無作為抽出の市民による市民討議会、ワールドカフェが実践されてきた。そして、政治の場では、多様な価値観に基づく多様な意見が闘わされ、熟議を経て、政治的妥協により今は決めないという選択肢もふくめ、結論を出すことが基本だ。
- シティズンシップ教育の実践としての市民活動・市民参加
これまでのシティズンシップ教育は、問題解決型の市民活動、自治体レベルにおける政策作りへの市民参加によって担われてきた。既存情報に加え、独自の調査研究による情報を獲得し、多様な情報を整理し、多様な意見の比較衡量により判断力を習得し、政治に参加するツールを獲得する。政策型思考に習熟し、政策提言の能力を高めることを試みている。
- シティズンシップ教育とは
批判力を含む政治的判断力を発揮するための知識・技術・態度を獲得し、政治活動をする市民を形成するものであり、学校教育のみでなく、市民社会の多様性によって行われる、こどもから高齢者までの広範囲な教育実践活動だ。
国や自治体の選挙への参加のためのみでなく、国や自治体における公共政策づくりへの市民参加などの実践教育、デモクラシー教育や、社会は多様な市民によって構成されているため、多様性の視点やジェンダーの視点が不可欠であり、ダイバーシティ教育、人権教育、持続可能な発展のための教育が必要だ。
- この間のシティズンシップ教育、主権者教育、キャリア教育
2006年に経産省で「シティズンシップ教育と経済社会での人々の活躍についての研究会」において経済活動との関連性を重視した報告書が作成され、2011年には総務省の研究会で投票率低下と若者の選挙離れへの対処とし、新たな主権者を「国や社会の問題を自分の問題としてとらえ、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者」と定義づけた報告書を出している。
中央教育審議会においてもキャリア教育のあり方にシティズンシップ教育を位置付けることが示され、職業人としてだけでなく、社会人としての養成を目指すこととされている。
また、NPOや民間団体による模擬選挙、議員事務所での大学生インターンシップ、選挙管理委員会・明るい選挙推進協会・大学などによる模擬投票や出前講義が、神奈川県教育委員会では、キャリア教育の一環として2007年から数校で開始し、参議院議員選挙時の模擬投票、模擬裁判、消費者教育など全県立校での実施など、実践されてきている。 ~その2に続く