いじめ防止プログラム
最近大きな問題としてマスメディアにも取り上げられている「いじめ」。東京・生活者ネットワークでは、『いじめ予防プログラム』を小・中学校に提供している神奈川県の湘南DVサポートセンター理事長の瀧田さんにお話を伺いました。
湘南DVサポートセンターのこれまでの活動
1999年に女性と子どもが人権を侵害されることない社会をめざして設立。その後アメリカで開発された「家庭内で暴力を目撃した子どもの心の回復プログラム」を取り入れ、被害者支援に取り組んでいる。また、暴力を未然に防ぐためには若者への教育が重要と考え、10代の子ども向けプログラムを開発し、小学校から大学での暴力防止教育を行っている。
『いじめ予防プログラム』とは?
まず・・・いじめについての共通認識(主に被害者に与えるいじめの影響の大きさ)を持つための講演会:生徒はもちろんのこと、教員、保護者、地域の方(民生委員、議員)も参加
つぎに・・・各学級におけるワークショップ:スタッフはファシリテーターとして意見を引き出す
1回目:いじめについて考え、それぞれの立場を考える
2回目:加害者の背景
3回目:大切な自分を発見する(自分と向き合う):自分大好きワーク
4回目:伝えよう自分の気持ち:人との距離感を身につけるアサーションというコミュニケーションスキル(異なる意見を受け入れる)
※ワークショップのルール
1.全員参加
2.全員参加が基本だが、参加したくなければ無理に参加しなくてよい
3.どんな意見も尊重する
4.パスする権利
5.他のクラスには口外しない
最初参加しないお子さんもどんなことが話されているのか気になって、そのうち戻ってくるそうです。
※2回目:班ごとに、オリジナルの加害者像を模造紙にまとめる。イメージを具体的にあげ、加害者像を掘り下げていく。意見調整をしてまとめ、ストーリー(背景)を考える。
※3回目:模造紙に具体的に自分のこれまでがんばってきたこと(成績・部活は除く)を書き自分自身を見つめ、さらけ出す→発表
一人一人の発表にスタッフがコメントをつけ、「本来の自分でいていい」と思わせ、クラスのみんなに本来の自分ことを分かってもらうことにつなげる。自尊感情を高めることを目的としている。
※4回目は3回目を受け、自尊心を持つことでNoといえる自分になる
どこの学校で行っても、徐々に生徒どうしでの議論が始まっていく。
基本的にすべて公開している
「いじめ」は学校で起こるが、原因は学校にはない。子どもの行動の背景には、その子の経験、考え、感情がある。虐待やDVが家庭で起きている場合、安心・安全な環境で生活できない。親の離婚、依存症、リストラなどで家庭が不安定である場合も同様。その経験が子どもたちを不安にし、問題行動に結びつくことがある。
このプログラムを公開しているのは、大人にこうしたことをわかってほしいから。
各自治体における導入状況
藤沢市の中学校をはじめ、24年度は世田谷区、今後は品川区でも取り組まれることになっています。1時間当たり1万円で、講演会1回+4回×1万円、これにクラス数が増えれば×クラス数分。
学びなおしができる子どもたち
子どもたちは、加害者の背景に貧困、暴力があることを知っている。大人は加害者を排除することを学校に求めがちだが、子どもたちは、小さいころからいっしょに過ごしてきた仲間でもある加害者を排除しようとは考えていない。ただ、暴力をふるうことだけをやめてほしいと思っている。
暴力で安定した組織は何も手立てをしないとずっと暴力で安定させようとする。当初の加害者を排除すると、次の加害者が以前の被害者の中から出てくる。身近な大人から学んだ間違ったことは、学びなおすことができる。
学校全体で支え合う
また、いじめ防止プログラム終了後に8時間のスクールバディトレーニングを受けた生徒(中学生)が生徒たちの結束を強め、学校内での自主的な活動の基礎をつくることもすすめている。
このトレーニングを受けた生徒がほかの生徒にプレゼンテーションをし、バディーを増やしていく。人の話を聴く、解決する必要はない、共感することが基本で、学校全体で支え合うしくみをつくることを目的としている。
私はいじめの加害者への対応として、厳罰化があるべきという風潮が強くなっていることに危惧を抱いていました。このプログラムは、ただ大人社会を反映しているだけに過ぎない、ある意味で被害者である子どもたちがほかの子どもに対して加害者になっていることを、私たち大人が自覚しなければならないことを改めて認識させられました。それと同時に、子どもたちの育つ環境を整えることの大切さ、学びなおしをすることでその環境を整えることができることを知り、心強く思いました。