地域におけるチーム支援で人生を取り戻す~ACT 包括型地域生活支援~
清瀬・東久留米地区の精神障がい者の家族会主催で開催された伊藤順一郎氏による講演会に参加した。伊藤氏は、国立精神・神経医療研究センターの精神科医で国内におけるACT実践の第一人者である。
ACTとは
・重い精神障害を持っていても、地域で暮らす権利を持っており、人生を取り戻すリカバリーの概念に基づいた支援、利用者のニーズを大切にする支援を行う。
・症状をどうするかということではなく、いかに安心して過ごすかに心を砕き、その人の持つ力を引き出し、自信を取り戻す。
・多職種チームで、アウトリーチを中心に、ケアマネジメントを行う。
・病院や在宅支援中心の精神科の診療所に所属する精神科医が主治医となり、訪問看護ステーションの看護師、精神保健福祉士、作業療法士、就労支援の専門課家、物質依存の専門家、保健師、心理職など、役割の異なるスタッフが複数関わり、生活の実情を理解しながら多岐にわたる支援を生活の場に届ける。
・精神科医療、生活支援、家族支援、就労支援を実施。
アウトリーチの持つ意味
・生活の場でのオーダーメイド型支援
・本人のホームグラウンドに出向く
・本人が安心できる空間での支援
・より具体性や即時性を持った臨機応変な支援が可能
・生活者への支援
・病気や障害を抱えながら地域で暮らす生活者への支援
・いきいき暮らすために必要な生活支援と必要最小限の医療
・病気の陽性症状は必ずしも地域生活の困難度と一致するわけではない
アウトリーチ支援の手法
・24時間365日を原則
・夜間も電話対応を行うが、夜間が大変にならないように日中の活動を十分に行っておく
・80名の利用者がいるが、夜の利用は年1~2回程度
・危機介入、入院時、入院中、退院時にも対応
・一人が担当するのは多くても10名とする
・支援範囲は車で30分程度の範囲として、すぐに対応することを保障する
望まれる訪問支援とは
・自室を病室にしてしまうような訪問や、チームと本人との閉じた関係が延々と続くような訪問も望まれるものではない
・地域社会とのつながりの回復のために共に地域に出ていく活動が必要
・ケースの支援を通じて、近隣住民、保健所、地域の支援者などとのかかわりを継続し、病を持っていても地域で暮らし続けるつながりをつくる
医療が地域に出るときの考え方~イタリアのトリエステ~
・症状を病気ととらえるのではなく、その人にとっての人生の危機ととらえ、おきている・ことを考え向き合う
・何かする恐れがあるから強制入院ということでなく、なぜそのおそれが生じるのか、背景に目を向ける
・苦しみを認め、社会的なつながりの中でサポートし、患者としてのアイデンティティを解体していく
・医学的な評価よりも人を中心においた人としての価値、人の持つ潜在力、人としての権利を大切に考える。
・市民として共存のために必要な変化:制度、実践、考え方
こころの健康の環境整備のための変換
・病院任せ、専門家任せから市民の生活にこころの健康へのケアが根付くことへの変換
・入院中心の医療、薬物中心の外来医療、崩壊寸前の精神保健から、アクセスの良い急性期医療、地域医療と生活支援の結合、様々な相談の中でこころの健康問題も取り上げていくことへの変換
イタリアのトレントにおける家族が協力者として精神保健医療のシステムに参加するUFE(ウッヘ)
U:患者 F:家族 E:専門家がかかわるしくみ
・窓口スタッフ、電話相談スタッフ、ケア作成者として経験者が支援者としてかたわらにいることの大切さ
・専門家におまかせにしない
・みんなで市民全体の問題として考える。
以前同行させていただいた、浜松のACTの実践を理論的に整理できる機会となった。そもそも、さまざまな個性を持つ人がいるのが人間の社会であり、だからこそいろいろな意味でおもしろいはずなのに、勝手に誰かが決めた範囲から外れると、矯正しなければ、排除すればと考えること自体矛盾している。しかも、生身の人間であればいつそうなるかわからない、そういう意味では自分自身のことでもあるのに。
日本でも、たくさんの地域でこのACTが増えていくことを切に願うばかりだ。