~電力システム改革は誰のための改革か~
エネルギー、特に電力について、国がどのように進めていこうとしているのかご存じでしょうか。
秋田県にかほ市の生活クラブ風車「夢風」を運営する一般社団法人グリーンファンド秋田発行の「夢風News Vol.83」から、代表理事で㈱生活クラブエナジー代表取締役の半澤彰浩氏のコラムを紹介します。
◯電力システム改革とはなにか?
2011 年3 月に発生した東日本大震災による環境の変化を踏まえて、日本の電力供給シスステムの改革をすすめていくために「電力システム改革専門委員会」が2012 年に設置されました。電力システム改革は大きく分けると3段階で実施され、第1段階として2015 年4月に「広域的運営推進機関」が設立されました。これは東日本大震災の際に東日本では電力が不足し計画停電し、中部、西日本では電力が余っていましたが東日本に融通できませんでした。従来の電力会社による地域独占の運用であったためです。将来の「発電と送電の分離(発送電分離)」を見越して従来の電力会社の枠組みを超えて電力を広域的に活用するための整備、電力需給状況の監視などをすすめています。第2段階は2016 年4 月から開始された「電気小売事業への参入の全面自由化」です。これにより生活クラブの電力小売会社㈱生活クラブエナジーによる組合員への電力供給がスタートしました。第3段階は来年2020 年4 月にこれまで既存の電力会社が発電事業と送電事業の両方行っていたものを「送配電部門の法的分離」が行われます。これにより全電力事業者が送電線を平等に利用できるようになることを想定しています。2020 年で電力システム改革は総仕上げを迎え、歴史的な転換点を迎えると言われています。果たして現状そうなっているでしょうか。
◯電力消費者のための小売自由化ではなく大手電力会社のためになっている?
*電源表示の法的な義務付けが重要
電力の家庭向け小売自由化で多くの新電力が生まれました。2018 年10 月現在の新電力のシェアは14.2%(低圧11.7%)となっています。家庭用の電気は価格競争に偏っていて再生可能エネルギーを全面に打ち出しているプランやその他消費者の生活変化を伴うメニューなどは大変少ない状況にあります。自由化は本来、消費者の選択権の行使につながらなくてはなりません。そのための基本は電源表示の法的な義務付けです。ドイツでは電気料金の請求書や電力会社のホームページに「再エネ○% 原子力○%:などを表示することが義務付けられています。日本では電源表示は「推奨」とされ会社の判断に委ねられており、消費者は電源による選択の自由がありません。「パリ協定」の採択による温暖化対策が強められる今、表示の義務化は大変重要です。単純な価格競争ではなく適正な競争を促すことが必要です。
*原発再稼働が国のエネルギー政策の背景
経産省の有識者会議は2016 年に、新たに参入した新電力にも東京電力福島原発の賠償費用の負担を求める提言をしました。また、2020 年にむけて「容量市場」という新市場の導入が検討されています。これは発電会社がもつ「発電余力」の価値を市場取引するというもので電力不足に備えて老朽化した原発や火力発電所を持ち続ける大手既存電力を結果的に支援する補助金になりかねません。自由化とは競争を阻害する要因を取り除き公平な条件で行うことがルールです。電力システム改革の中で派生している様々な問題は原発再稼働を前提とした大手の既存電力に有利な政策を引いている事は、大変問題ではないでしょうか。今こそ電源表示の法的な義務化をすべきです。
◯電力を使う主役である消費者のための電力システム改革を!
*「発送電分離」で公平で透明性を担保した送電線利用を!
発電と送電の分離は電力システム改革をすすめる上でとても重要なことです。送電線は、誰もが公平に同じ条件で使えるようにすることが重要です。日本の再生可能エネルギーの普及率は2018 年実績でダム水力含めてまだ17.4%です。政府が2018 年7 月に決めた「エネルギー基本計画」では2030 年に、再生エネが22~24%、原発が20~22%、残りを石炭火力中心の化石燃料としています。また、2050 年には再エネを主力電源化する方向性を出していますが、再エネを主力電源化するためには2030 年の導入目標を諸外国並みにもっと引き上げる必要があります。現在、送電線の増強計画に伴う工事負担金の発電事業者への負荷、接続について空き容量がないという事態が各地で発生しています。しかし本当は空いていることも指摘されています。日本の送電線の空き容量の基礎計算は定格出力(最大限使用した場合)がベースになっていますが、実際にすべての電源が最大使用になることはありません。だから、実際には稼働していない原発の分を再稼働に備えて空けておくとか、非常事態に備えて平時から容量50%は空けておく(これは必要ですが50%もいらない)などの様々の制約があり、実際の送電線利用率が10%台に留まっている状況だということです。再エネを主力電源化しようと言っているのに入口で入場制限しているようなものです。EU の場合は「空き容量」は実潮流ベースで計算しており、変電所や送電線の容量不足を理由に接続拒否はしてはならないという再生可能エネルギー優先接続の徹底がされています。再エネのアクセス向上は、政策でできることなのです。また、送電線の増強の費用を接続する事業者だけが負担する(特定負担)こととしていますが、この低減化をはからないと、地域を拠点とした小さな再エネ発電所をつくることが厳しくなっています。現在、日本のルールでは、電力が供給過剰になった場合、原発よりも再エネの出力を先に調整することになっており、九州電力での再エネ出力抑制のような事態が発生します。原発も化石燃料も出力抑制はできます。またEU では再エネ優先接続・給電の基本的な考え方と市場取引で安い値がついた電気が優先されます。出力抑制のやり方も様々工夫はできるのです。
*2050 年再生可能エネルギーの主力電源化にむけて原発を廃止し、再エネを当たり前の電気にしよう。
政府は2030 年に向けたエネルギー基本計画においても原子力をベースロード電源に位置づけており、原発再稼働と石炭火力の稼働で74%をまかなう計画になっています。またパリ協定にもとづく2050 年に向けた長期CO2 削減戦略の政府案のベースとなる「パリ協定長期成長戦略懇談会」の提言が4 月出されました。この案によると原発の廃止は触れられておらず、石炭火力も依存度を引き下げることしか出されていません。2030 年の再エネ目標を引き上げ、再エネ40%、2050 年に再エネ100%を目指し、原発を廃止し石炭火力をゼロにしていく実態をつくっていくべきです。そのことが温暖化対策としてパリ協定の目標達成する脱炭素社会への筋道だと考えます。また改めて電力小売の電源表示を義務化し消費者の選択権の行使、参加を広げていくことが必要と考えます。 「生活クラブでんき」による再エネの拡大実態をつくりながら再エネを通じた持続可能な地域社会づくりをすすめていきましょう。