性暴力をなくすための刑法の改正
性暴力は、被害者の尊厳を踏みにじる行為であり、心身に長期にわたる深刻な影響を及ぼします。性犯罪・性暴力対策の根絶を求める機運の高まりもあり、対策の強化に向け関係省庁が検討をしています。加害者・被害者・傍観者にさせないための取り組みに加え、子どもの発達段階や被害者の多様性などに配慮したきめ細かい対応が必要です。弁護士として被害者の支援を行い、検討会議のメンバーでもある寺町東子さんの学習会を紹介します。
◆最近の刑法改正に関する経過
2017年 刑法改正:法定刑5年以上、非親告罪化(親告しなくても罪とする)、
監護者(保護者など)類型の新設、肛門・口腔性交の追加
2018年~2020年3月 実態調査(被害当事者・被害者支援関係者へのヒアリング)、
裁判例、不起訴事例、海外法制等調査→刑事法検討会
2021年10月 法制審議会・刑事法部会スタート
◆法制審議会・刑事法部会での検討事項
性犯罪の被害に遭った人の一部しか警察に届けることができていない、強い恐怖や驚愕に直面したときの反応や、力に支配された人の心理について理解した上で検討することが共有された
1.暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正(被害者の同意がないことに関する要件)
2.同意年齢の引き上げ(現行では13歳未満とされており、同意能力の考え方)
3.被害者の脆弱性(被害者に障がいがある場合など)や地位・関係性を利用した罪の新設
4.わいせつな挿入行為の見直し(物の挿入行為の位置づけ)
5.配偶者間においても罪が成立することの明確化
6.わいせつ目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)への罪の新設
7.時効の見直し(低年齢のため被害に気づかない、加害者が親の場合申告困難などに対応)
8.録音・録画記録媒体の証拠能力の特則の新設(被害者が暗示や誘導されやすいこと、供述が難しいことへの配慮や負担軽減に必要であるため具体的規定を検討)
9.性的姿勢の撮影行為、画像等の提供に係る罪の新設(わいせつ行為とその撮影や流通に関し)
10.性的姿勢の画像等を没収・消去できる仕組みの導入(判決を待たずできるように)
◆被害の発見、救済、加害の防止
1.DV被害と性暴力、DVと虐待と女児への性的虐待、女性のリストカットや摂食障害、パニック障害の背景に性暴力がある、証拠がすべての法の世界では証拠の確保が重要
2.性暴力は、自分の意思が無視され、支配されること。尊厳を傷つけ、生きる意欲を損なう 自己効力感を取り戻し、前向きに生きていけるよう、「あなたは悪くない」と繰り返し伝える
3.加害者も虐待、いじめ、パワハラを受けた人が多い。他者を支配することで鬱憤をはらす。対等な関係を作っていくことが本質