メッキも全部はがれた「新しい資本主義」

子どもの相対的貧困率の推移

「新しい資本主義」を掲げた岸田内閣ですが、首相の所信表明演説や国会答弁からは「格差」と「貧困」は切り離され、「貧困」は日本の課題とすらされていないことが見えてきています。「暮らしの危機とジェンダー平等」をテーマに開催された「7.25 女性の権利デー」 シンポジウムにおける東京大学名誉教授経済学博士大沢真理さんの講演を紹介します。

 

 

◆低所得層の置き去りが経済成長を損なう
○中間層の所得シェア、人口内の割合も低下
・中間所得層の所得が下がったのは OECD 諸国で日本だけ
・貧富の差がアメリカに次いで大きい上に、格差が上昇気味なのは日本だけ
・中間所得層の生活費用は物価より速く上昇(居住、医療、教育)

○平均実質年収の低下
・賃金は、民主党政権期(2010 年~2012 年)より、安倍政権期の方が7ポイント低かった
・2022 年の月収は低下が続き、5 月は 99.4(2020 年を 100 として)

○低所得層の所得の上昇が経済成長率を上昇させる
・トップ 20%で平均所得が上昇しても成長率は下がるが、ボトム 20%で上昇すると成長率が上昇

◆所得不平等は経済成長を阻害する
・所得不平等や貧困率が拡大する(とくにボトムでの)⇒「一般的信頼」の低下
・一般的信頼とは「たいていの人」への信頼
⇒低下すると取引費用*が上昇し、イノベーション*が阻害
*取引費用:手数料だけでなく、製品の品質を見定める労力や手間なども
*イノベーション:製品やサービス、生産や流通、組織、市場の革新

◆日本で貧困・格差をいかに削減するか
・ 年金に最低保障を:日本の貧困者の 4 分の 1 が高齢女性
・現役層と子どもの貧困に対して、ディーセント・ワーク*と同一価値労働同一賃金の遵守を
*ディーセント・ワーク:働きがいのある人間らしい仕事、人間らしい生活を継続的に営める労働条件
・金融所得・相続への課税強化、所得税制の所得控除を税額控除に転換し、給付付きとする
・ 生活保護制度を解体:住宅給付を導入、児童手当・児童扶養手当を統合する

政権の日々の動向に注目している大沢さんは、昨年 10 月に発足した岸田政権を『毎日が腰砕けの「新しい資本主義」』と評し、これまでの動きも示されました。
10 月の首相就任後記者会見では金融所得課税の見直しに言及(選択肢の一つとして)
その直後の所信表明演説では、「富める者と富まざる者との深刻な分断」、「中間層を守り」、「分配なくして次の成長なし」、「働き方に中立的な社会保障や税制」などあげ、「新しい資本主義実現会議」を設置
12 月所信表明演説では、「市場に依存しすぎたことで…格差や貧困が拡大し…自然に負荷をかけ…女性の就労の制約となっている制度の見直し…分厚い中間層を取り戻していきます。」と。にもかかわらず、西村立憲幹事長の代表質問には、「相対的貧困率という指標が、日本にはなじまない」と答弁。
今年 6 月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では「格差」と「貧困」が切り離され、貧困は課題とすらされていない。「経済財政運営と改革の基本方針」では、前政権と同様、「共助社会づくり」として、「官の領域とされてきた社会課題の解決に」、「民の力」を期待。
岸田さん、早く手を打たないと、格差はひらく一方です。

先の大沢真理さんの講演「包摂する社会が危機にも強い」https://konishi.seikatsusha.me/blog/2022/05/08/5030/も併せてお読みください。