行政サービスと税・社会保障負担をどう考えるか ―分かち合いをめざすためにー

減税こそ最高の政策なのでしょうか。医療・介護を使うときの自己負担の引き上げは、本当に困ったときに使うはずの制度そのものの意味をなくしてしまうのではないでしょうか。
埼玉大学人文社会科学研究科教授 高端正幸さんの講演を紹介します。

◇租税とは
・政府が公共サービスの提供に必要な支出をまかなうために強制的に無償で調達する貨幣
強制性:法の定めに従い、徴収される
無償制:給付と無関係に徴収される⇒使途は予算に基づき決定
⇔社会保険:保険料の支払いにより受給権が発生(租税は使途と関係なく徴収)

◇財政はニーズを満たすためにある
・ニーズ:生存と人間的な生活のために必ず要するモノ・コト
⇒財政は税でニーズを満たし合う共同の財布(ニーズを満たさなければ財政も税負担も意味がない

◇財政とニーズの満たし方
・市場で購入する⇒購入するためのお金(所得)を要する
・誰かにしてもらう⇒信頼を伴う人間関係を要する
・共同利用する(警察、消防、上下水道、公共交通など)
財政は、税を元手に所得を保障する、サービス給付する、共同利用するサービスを提供する

◇ニーズの充足より財政事情が優先されてきた
・平成の30年間で社会保障が財政支出の圧倒的中心(3割超)になり、財政赤字の犯人扱いに
⇒財源確保はニーズを満たすために私たちがいかに負担を分かち合うのかという問題

◇負担を避けることは財政赤字を増やすことに
・国際比較で見ると日本は社会保障支出の規模に対して負担が小さすぎる

◇「減税こそ正義」の世論を生み出すものは何か
・“病気の人に必要な医療を施すこと”、“高齢者がそれなりの生活水準を維持できるようにすること”、“家を持てない人にそれなりの住居を提供すること”についてそれぞれ政府の責任と考える人の割合が日本は平均より10%以上低い(ISSP 国際比較調査より)
・“教育は無償であるべきだ”、“無条件に基礎的所得を保障すべきだ”についてそれぞれそう思うと答える人の割合が日本は平均より25%以上低い(IPSOS 国際世論調査より)
⇒強い自己責任論=政府が生活を支えてくれることを期待していない?支えられている実感がない?

◇2 つの信頼の欠如
・強制的かつ無償で負担を求めるからこそ、租税の負担に対する人々の同意が重要
・政府への信頼・社会への信頼が高い国ほど、高租税負担を実現⇔日本はいずれの信頼も低い
⇒税の負担を拒否する
・実際には日本の人々の税負担は軽い方だが、重く感じている⇒嫌税感⇒歳出削減や減税論に
・自分ではないお金持ちへの課税強化のみ支持される⇒しかし富裕層の増税のみでは財源確保は無理

◇税でニーズを満たし合う連帯社会
・税金は高いが、親の介護も子どもの教育も無償、失業しても生活に行き詰まることがない
・みんなの税金で教育を受けてきたから社会に出たら納税して貢献しなきゃ
・高齢化が進んで年金や医療のために税金が上がっているけど、子どもができても、障がいを持つことになっても安心だから、お互いさま

◇社会保険料依存からの脱却
・社会保険料負担が所得に対し、著しく逆進的⇒日本のみが税への転換を図れていない⇒社会保障の削減ではなく、税による分かち合いの強化へ

◇ニーズの充足と負担の分かち合いを一体的に進める
・社会保険料依存からの脱却、所得税の再分配機能の強化、資産課税の強化を前提に
消費税の段階的引き上げ、所得税の幅広い税率区分での税率引き上げ

◇共同性を再編・拡充し、ニーズ充足の危機を乗り越える
・経済発展に任せて、「支え合わなくてもやっていける人」を増やすという経済成長依存の自己責任社会は完全に行き詰まった
税は増えても、基礎的なニーズは誰もが満たされる社会へ、個人・家族が自助に閉じず、つながり合う・支え合う自発的な共同性へ

みんなのニーズを満たすことで税による支え合いと社会連帯を進める安心と信頼のある社会のあり方を望みます。