社会的擁護の子どもたちと支援の課題

 

家庭的な小規模単位の施設となっている「子供の家」 子供の家HPより

消費生活センターで開催されたエコまつりにおける、市内の児童養護施設「子供の家」施設長の早川悟司さんの講演会に参加した。

社会的擁護の状況

社会的擁護とは、保護者が子どもを守ることが難しくなったときに、子どもを公の責任のもとで保護するしくみで、現在でも措置制度により都道府県事業として行われている。児童養護施設や自立支援施設、乳児院などの施設にいる子どもたちは3万人弱、里親やファミリーホームにいる子どもたちは5千人ほどである。こうした子どもたちは、少子化にもかかわらず年々増加傾向にあり、児童養護施設が満員のため、家庭や一時保護所に待機しているのが現状だ。

厚労省の調査結果では、保護されている子どもたちの家庭の状況は、約6割が母親ひとりで子育てをしており、虐待の原因としては6割強がネグレクトによるものとなっている。ただし、現場にいる早川さんの実感としては母親一人で子育てをしているのは8割にのぼり、厚労省調査には戸籍上離婚が成立していないだけというケースも含まれていること、その一方で、ネグレクトには夜の仕事のため子どもが一人でいるだけでも含まれるため、現場の実感より多い数値が出ていることに注意が必要ということだった。

虐待を受けた子どもの保護者は、単身、低学歴、低所得に加え、社会的孤立という特徴がある。すなわち、虐待は社会の問題であり、必要なのは非難でなく、肯定的注目と支援である。たった一人で子育てをがんばっている8割の母親に対し、養育費を支払っている父親は2割弱という現状に、女性や子どもが大切にされない自己責任の国だと感じるという言葉が印象的だった。虐待したくてしている人はおらず、子育てがうまくできないことが原因であり、どう支援していけばよいかを考えることこそ必要だ。

自立支援の課題

虐待が子どもに与える影響は、発達障害や反応性愛着障がい、低い自尊感情・学力・学歴、さまざまな行動上の問題、居場所の喪失、展望のなさとあまりにも大きい。こうした親は社会からネガティブメッセージを受けてきたケースが多く、そのメッセージは親から子どもに送られてしまう。

また、虐待を受けた子どもは、家庭における学習環境の不備があることが多いうえに、一時保護になると学校教育が停止され、その後、児童養護施設に入ることで転校しなければならないうえに生活する環境が激変するという3重のハンディを負っている。

また、社会的な自立においては、若年、低学歴、支援者と拠り所の不足、社会でのつまずきや排除とまさに困難を極める。

児童養護施設では、18歳までの生活支援、進学・就労という自立のための支援、進学・就労後の相談に応じる退所後援助という役割がある。しかし、実際には高校に進学しなければ保護の対象からはずされてきた。すなわち、社会的自立能力の未熟な子どもほど早期の自立を強いられる。大学進学率でみると、一般家庭では高校卒業後53.9%が大学や短大に進学するが、施設で育った子どもは12.3%にすぎない。学力以上に経済力が課題だ。社会的自立のためには、居場所の確保をすることで、自尊感情の回復をはかり、社会適応能力を涵養する必要がある。そのためにも、施設だけでなく、里親やグループホームなど多様な子どもの居場所を地域の中に作り、大人の都合で子どもが振り回されることなく、つながりのある地域の中で子どもが生活し続けられるようにすることが求められる。 

 

早川さんは今後、清瀬で地域子育て支援センターを開設したいという夢をもっている。さまざまな仕事をする中で、競争して生きることに疑問を感じ、福祉系大学に入り直し、現在に至るという。施設は偏見を持たれることが多いため、地域から疎まれる存在であることが多いが、清瀬は温かい地域だと感じているということだった。ぜひ、大阪西成区にある「子どもの里」のような機能がある場所を目指してほしい。

ちなみに、「子どもの里」は、1階が児童館、2階が厨房と食堂、宿題もできる図書室、3階が小規模住居型児童養育事業のファミリーホームになっている。ファミリーホームは児童相談所に保護された子どもたちだけでなく、「親と喧嘩してしまって」という子どもや、「子どもに暴力を振るってしまいそうで」という親からの依頼も含め、家庭に帰ることができない子どもを預かっている。