子どもの虐待を防ぐ親支援
学生時代、区内のプレーパークの活動に関わり、子育て中も関わり続け、自主保育グループを立ち上げるなど活動をしてきた、社福)子どもの虐待防止センターの天野智子さんにお話を伺いました。
★子どもの虐待防止センターとは
・世田谷区に1991年に電話1本で民間の相談機関として設立、電話が鳴り止まない
・専門家の連携で親を救う必要を感じ、親の声を聴く(虐待事件が起きると鬼母と責められる)
・親・養育者への支援電話相談、MCG(マザー・チャイルド・グループケア)、育児スキルトレーニング
・子どもと養育者への支援として愛着形成のための心理治療プログラム(養護施設や里親家庭)
・専門家への支援としてセミナー開催、講師派遣、広報啓発活動として情報発信、テキストの発行
・2019年6月児童精神科クリニックを開設し、こどもおよび養育者の治療
★電話相談とMCGの役割
- 電話相談
・「虐待から子どもを守るためにはその親のケアが欠かせない」との考えから親の声を聴こうと始められた電話相談(1991年~)
・基本姿勢―聴く、気持ちにより添う:共感できないことでもただ聴く
・電話の特性―匿名性、即時性:相談員も匿名が原則
長いと2時間というケースもあり/とにかく受け止める/他の相談員と共有しはき出し、情報共有/「地域で子育てっていうけど、地域ってどこにあるの」ということばに無力感を感じつつ/赤ちゃんの泣き声を聞かせ続けられるようなことも/支援者に対する試し行動なのかもしれない/以前なら井戸端会議で話して解消できるような夫や家事のことも多く、孤立しているのではないかと感じる/長く話し、聴いてもらえることではき出せ、次に向かうことができる/心の居場所を探している
- MCG(母と子の関係を考える会)
電話をしてくる母親の中には自らの被虐待体験を語る人が少なくなかった→暴力と世代間連鎖について安心して話せる場が必要→MCGがスタート《1992年~》虐待を嗜癖ととらえる
- MCGとはどんな場か
・主体性と対等性が大切にされる場(被虐待により選択や表現が許されなかった)
・安心と安全そして仲間の存在がある場所:孤立感がない、一人じゃないと思える、そのままでいいと認められる場
・他のどこでもなかなか言葉にできない心の中のことを語ることができる場
・相談員がファシリテータ《進行役》を務める/参加者がお互いに受け止める
- MCGの3つの約束事
・批判しない、アドバイスもしない
・外に持ち出さない
・話さなくてもよい
- MCGで語られてきた当事者の思いとその理解
本来は愛されるはずの親からの力による支配/本人が認めたくない、受け入れられない/自分が悪いからそうされた/自分にとって恥ずかしいこと/「あの親御さんが」とこれまで人に話してもわかってもらえなかったという体験による失望感があったことで人に話すこと自体大変な決意/なかったことにしたい体験/思い出すことも怖い/フラッシュバック/自分の子どもがそれを思い出させる/自分のこととオーバーラップし、子どもの立場になったり親の立場になったりし混乱する/どうしていいかわからない/子どもの言葉が発達してきたら自分がどうなるかわからない/子を持つことにも覚悟が必要/自分のいったことが自分の親と同じ/やっぱり親になるべきではなかった/自分の親は親としてのモデルにならない/子ども時代を話せない/刑務所にいたことを人に話せない人と同じに感じ、自分は人と違うと感じてしまう/普通じゃないことで孤立感を感じ、人間関係が怖いと感じる/家族という基本の関係の中で、支配、被支配という関係を小さい頃に人間関係とはこういうものと学んでしまう。しかし、子どものためと無理をして人間関係を作ろうとし、また被支配になる怖さがある。親失格と思い、自信をなくす
自分のことを見つめ、これからのことを考える/自分の力だけでは変われないことを認め、助けを借りる
★民間の試みから公的機関での取り組みへ
- 保健センター・子ども家庭支援センター
・母親グループを作り、子育て中の母親の心の健康を高める
広く子育て中のママを対象に、育児不安の解消や虐待予防を目的に、非日常的な場と時間の
確保が必要/子どもを預け90分間対等な関係を意識した丸く並べた椅子で順番に話し、そこにおいて帰る
・母子保健や育児相談という切り口だけでなく、家族全体を援助する視点を持つ必要
・グループと個別の両輪で
思うようにならない子育て/母親業はできて当たり前、できないと大きく批判される/できないと自分を責め、自信を失うため、子育て期は自己肯定感を持ちにくい/肯定感を持つことが必要/人との境界線(自分と子どもの境界線)を作っていく/自分の感情を思ったままに表現することが大事
- 児童相談所
子どもが分離、保護された母親のグループ《家族再統合プログラムとして》
子どもへの虐待はその子の人生に大きな負の影響を与え続ける。それだけでなく、本人は次の世代につながることへの不安を感じ、次の世代につながることも多くある。
安心して話すことができる場がその不安や連鎖をなくす一助となっている。
また、子育て中の母親は、まだまだ子育てを一手に担うことが多く、子育てはうまくできて当たり前、できないと大きく批判される。母子保健や育児相談という切り口だけでなく、家族全体を支える必要がある。