東京都における環境保全型農業
清瀬市では軒先販売などで新鮮な野菜を買うことができ、地域の大きな魅力となっています。普及指導員として長く農家に接してこられた東京都産業労働局農林水産部食料安全課長 小堺恵さんの講演を紹介します。
◇東京の特産農産物
・区部、多摩地域から島しょまで、地域の特性を活かした特色ある農業
・東京の農業産出額
1位:コマツナ(江戸川区、葛飾区など)
2位:トマト(八王子市、町田市など)
3位:ホウレンソウ(清瀬市、八王子市など)
4位:ニホンナシ(稲城市、東村山市など)
5位:生乳(八王子市、瑞穂町など)
・東京の農産物で農業産出額全国1位は、切り葉(切り花の添え葉/島しょ)、ブルーベリー
◇東京農業の特徴
・6,190haの農地で約9,600戸の農家、農家数は30年前の半数以下
・販売農家4,600戸/自給的農家5,000戸
・耕作面積:東京都0.7ha、全国3.1ha
・農業産出額(万円/10a):東京都35.5万円、全国22.2万円⇒収益性の高い野菜、花、果樹
・市場出荷の割合は減少し、共同直売所、スーパー、小売店、学校給食への出荷が増加
・農業体験農園も人気が高く、消費地に近い地の利を活かした地産地消を展開
・体験の場や防災空間、環境保全など多様な機能を発揮:「宅地化すべきもの」→ 「あるべきもの」(都市農業振興基本法2015年施行)
◇東京の農地
・6割が市街化区域に存在
・市街化区域の農地の8割が生産緑地、都市の貴重な緑として保全
・毎年100ha減少、市街化区域は相続を契機に農地が小型化、分散化
◇環境保全型農業の推進
・環境保全型農業の認証制度として「東京都エコ農産物認証制度」(2013年から)
*環境保全型農業:農業の持つ物質循環機能を活かし、生産性との調和に留意しながら化学合成農薬や化学肥料の使用削減等による環境負荷の軽減をめざす農業
◇東京都エコ農産物認証制度
・環境負荷の少ない生産技術を使い、化学合成農薬及び化学肥料の慣行使用基準*から一定の使用量を削減して栽培された農産物を都が認証
*慣行使用基準:地域(都内)の通常の栽培での使用実態を調査して設定した基準
・農産物の生産状況、生産履歴の確認、残留農薬調査を実施し認証
認証区分:東京エコ25(化学合成農薬・化学肥料25%以上削減)、東京エコ50、東京エコ100
認定生産者466件、認証対象品目73品(2025年1月現在)
・栽培の工夫:化学合成農薬の削減(天敵昆虫の活用、減農薬資材の活用)/土づくり、有機物の施用(緑肥作物の導入)⇒温室効果ガス削減、生物多様性の確保、化学物質による環境負荷の軽減
◇東京で環境保全型農業を推進する意義と方策
・直売の品揃えを増やすため、手間はかかるが少量多品目を栽培する農家が多い
・住宅地が隣接しているため、安全安心や周辺環境との調和も図る栽培方法を工夫
・フードマイレージ*が小さいため、輸送上の環境負荷が少ない
*フードマイレージ:食料の輸送量(t)×輸送距離(km)
◇有機農業・有機農産物・特別栽培農産物(国の基準)
・有機農業:化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業(有機農業の推進に関する法律の定義)
・有機農産物:有機JAS規格*の基準に沿って生産された農産物
*有機JAS規格:化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本に、周辺から使用禁止資材が飛来または流入しないように必要な措置を講じる、種まきまたは植え付け前2年以上化学合成肥料や農薬を使用しない、遺伝子組換え技術の利用や放射線照射を行わない
・特別栽培農産物:化学肥料及び化学農薬の使用回数と量が慣行使用の5割以下の圃場で栽培された農産物
東京の化学合成農薬及び化学肥料の慣行使用基準は、全国的に見ても低い水準であり、学校給食をはじめとする地産地消を進めていくことが望まれるというお話もありました。
また、連作障害が起きやすい野菜を多品目生産する東京では、毎年少しずつ圃場を移動させながら栽培することが多く、圃場を認証する国の制度にはなじまないことから、東京都独自のエコ農産物認証制度が創設されたということでした。
国の有機基準は遺伝子組換えだけでなく、ゲノム編集も規制が必要と考えます。
