子どもの貧困 ~子どもの権利としての育ちを支えるためには~
東京都の児童養護施設の児童指導員を経験され、日本大学教授となった井上仁氏の学習会に参加した。
見えない貧困
大人二人以上世帯の子どもの相対的貧困率12.7%、ひとり親家庭では50%を超えているのが現状となっている日本の貧困は、義務教育の徹底や、生活保護などの支援で居住施策などがあるため、見えない貧困となっている。
可視化されない中で学歴・就労・収入などの格差が拡大しており、貧困の連鎖を生み、児童虐待・少年非行、風俗に走る少女の背景になっている。子育て支援は言われているが、非行問題等の貧困対策は進んでいない。
子どもの貧困の連鎖とその影響
子どもは親の状況による影響を受け、学歴格差など貧困からの脱出手段の制限となっている。家族で得られる価値観が世代間連鎖していく。
貧困は、教育の機会(就学機会、学力格差、学歴格差)、就労格差(学歴・知識・住居・交通手段等複合的な問題)、交通手段(交通手段の制限、生活・就学・就労の影響)、医療衛生環境(発達、社会的価値観、精神衛生、成長格差)、住環境(住所不定、ホームレス化、家族分離など)、情報アクセス(行政情報、就労情報、就学情報、保健サービス等)に大きな影響を及ぼす。
格差はさまざまな二次的影響を及ぼす。子ども時代においては、いじめ、虐待、差別など、青年期には非行・少年犯罪・ひきこもり・ニートなどである。
経済的な負担ができるところではじめて競争といえるはずだが、過度な競争がより格差を増大している。
かかりすぎる教育費と公的支出の低さ
離職率は学歴と相関関係があり、若年層ほど就労は不安定だ。再チャレンジに厳しい現状も貧困の連鎖を生んでいる。
教育費の負担能力が学歴格差、塾に依存した学力格差につながっている。
就学意欲は保護者の学歴への価値観によるところが大きく、子どものあきらめ観につながっている。就学・学歴格差が同じスタートラインに立てないことにつながり、貧困の連鎖を断ち切ることができにくくしている。
子どもの教育費は、大学まですべて公立で塾代を含まなくても約1000万円かかるのが現状だ。子育てや教育費にお金がかかりすぎるために、理想の子どもの数を持てない人が多い。
それにもかかわらず、日本は先進国の中でも、子ども向けや子育て世帯への公的支出は最低レベルであるため、子どもを持つと貧困化しやすいといえる。子どもは家庭を選べない。貧困対策は家族対策でなければならない。子どもの学び・育つ権利を保障する社会になることが必要だ。
社会保障給付のほとんどは、年金と医療サービスになっており、子育て世帯に対する給付は少ないのが現状だ。貧困家庭でも社会保険料の負担が重く、支援策も十分とは言えない。学習支援だけでなく、親の就労・奨学金・家庭支援が必要だ。
児童養護施設の子どもたち
里親のもとで育てる子どもを増やし、家庭での生活の仕方を見せることが必要だ。経済的な貧困だけでなく、こうした体験や社会的価値観の貧困という問題もある。
また、進学率も全中卒者平均で高校が98%、大学が54.4%に比べ、施設の子どもたちは93.6%、12%とかなり低い。
18歳で施設を卒業しなければならない課題も大きい。20歳まで、必要に応じていられるようにすることが必要だ。保証人もなく住まいを見つけられないために、仕事にもつけないということもある。
また、学力だけでは解決しない、多様な選択肢を持てることを保障する必要がある。学歴格差の解消のためには、経済的な支援、給付型の奨学金、居住支援としての住居費の補助や相談支援による精神的サポートが必要だ。
地域支援の要は家族支援 ネットワークで支える支援
子どもたちを見守れる目が必要だ。そのためにも、子どもたちをラべリングせず、子どもたちの居場所づくりを地域での支援として行うこと、学習支援、食事支援、安心な場・遊びの場などの居場所、経済的支援を行う必要がある。
家族支援はネットワークによる多様なサービスが必要だ。悩んでいる親に寄り添い、就労・経済支援により解決に向かう力をつけられるような“してあげる”支援ではなく、“エンパワメント”が大切だ。
子どもをエンパワメントする
学習支援にもとめられることは、学力支援ではなく、子どもの自尊感情を育てることだ。それが子ども自身をエンパワメントし、貧困に向き合う力となる。
子どもが自分自身に投資できる環境を作り、頑張ればスタートできる環境をつくることが必要だ。学費等の補助や自立できる居住補助、進学・進路の多様性の確保が求められる。
自立の基礎となる資源は、経済的なものや学力だけでは足りない。フリードマンは、生活空間、余暇時間、知識と技能、適正な情報、社会組織、社会ネットワーク、労働と生計を立てるための手段、資金の8つをあげている。すなわち、社会参加力である。
地域で育つ、地域で学ぶ
子どもが地域社会に参加することにより、子どもたち自身が主体的に考えることができるということが重要だ。自分たちで何とかできると思える、子どもの最善の利益を基準として地域社会の主役として活躍できるように、文化を引きつく世代である子どもがこの社会を支えると思えるように地域で学べる場の提供が必要だ。
子どもにやさしいまちをつくるために、子ども参加、子どもの安心と安全を軸に地域社会で育ち、学ぶ環境を整えることが大人の役割だ。
求められる地域のサポーター
めざす大人のモデルや、子どもの視点からの地域つくりの担い手として、子どもの権利をサポートする姿勢をもち、エンパワメントの選択肢の提供をする。
めざすものをもたせることや、実践的に文化を引き継ぐこと、また、親とのかかわりをもっと作る必要がある。学習支援には学生がかかわることで、学生自身もこうした問題に気づくことにつながる。ただ、学生は卒業などにより交代するため、大人がかかわり継続した支援が行えるようにしていく必要がある。
そして、地域がすべての子どもたちの成長と学びを支える居場所となることを目指したい。
井上教授は、国内だけではなく、ここ数年、フィリピンにおいてもご自分のゼミの学生たちとともに子どもたちへの支援をおこなっている。やればできると思ってもらうこと、目標を持ってもらうことが、子どもたちを貧困の連鎖から断ち切ることができる、と実践を通して実感していることが伝わってくる説得力のある学習会だった。