新たな時代を迎える都市農業
「食べることは生きること」。だが、TPPによる食の安全が崩壊する危険は、身近に迫っている。私たち都市消費者にできることは何か。身近な地域で食を守っていくこと、そのためには身近な地域の都市農業を守っていくことではないだろうか。2015年4月に成立した都市農業振興基本法について、農業ジャーナリストの榊田みどりさん、東京都農業会議の北沢俊春さんの学習会に参加した。
★これまでの都市農業の位置づけ
1971年 税制改正により市街化区域内農地に宅地並み課税が導入される(それまでは農産物収入に基づき課税されていたが、宅地の固定資産税と同じ算定に)
ただし、農業を営むことを継続したい農業者には、条件付きの優遇措置
1974年 生産緑地制度創設
1975年 相続税納税猶予制度創設(相続後20年間営農することを条件に相続税を免除)
1985年~91年までのバブル期 市街化区域の農地の価格が3倍に暴騰
1991年 生産緑地法改正(生産緑地申請に30年の営農継続、相続税納税猶予は終身営農が条件となり、農地の宅地化が促進される)
★都市農業の現状
こうした法改正を境に、先進地であった都市近郊生産地は、規模の縮小や生産環境の悪化により市場評価が低下しただけでなく、農業者も減少することで市場出荷体制が崩壊。都市農業における農産物の年間販売金額は100万円未満が60%、そのため不動産経営と兼業している農家が65%、販売先は直売や学校給食が約半分を占めている。
また、市街化区域の約8割が生産緑地であり、そのうち約3割が相続税納税猶予を受けている。
★都市農業振興基本法とは
そんな中、人口減少・高齢化の中で、空き家率の上昇など都市が縮小に転換。2009年国交省
が都市農地は、「必然性のある安定的な非建築空間として活かす」方針への転換を、農水省も「都市農業を守り、持続可能な振興を図る」という方針を示している。
このような背景の中、この基本法は、「農産物を供給する機能の安定的な継続を基本に、多面的な機能を評価し、まちづくりを行う」という考え方にもとづき制定された。そして、以下の意味を持つ。
①「市街化すべき」と位置づけてきた都市農地が都市に必要不可欠な「あるべきもの」に転換
②これまで「緑地」とされ、都市政策の対象となってきた都市農業がようやく「農地」として農業政策の対象に
③農地保全の最大のネックだった税制措置の見直しへ
④国交省(都市政策)と農水省(農業政策)が初めて都市農業政策を議論(画期的なこと)
★都市農業の多面的機能とは
○新鮮で安全な農産物の供給
○心安らぐ緑地空間
○国土・環境の保全
○農業体験・交流活動の場
○災害時の防災空間
○都市住民の農業への理解の醸成
地産地消の意義は、新鮮な農産物の需給関係だけではない。それは、住環境と生産基盤である農地の共存共栄である。生産した農産物を消費者が購入することにより農業が継続でき、農地が保全されるとともに、その農地は多様な役割を持ち、価値を生み出す。
また、住宅に囲まれた中での農作業は、作業時間、農機具音、風向きなどに配慮しながら行われており、そうした気配りの過程も理解したいものだ。また、学校給食への納入も野菜の規格の統一や当日朝の時間内の配達という、手間のかかるものであり、農業者の学校給食への理解や熱意に支えられている。
★広がる可能性
今後は、さまざまな形で農業とかかわりたいという要望をかなえていくことが、農業、農地を守ることにつながるはずだ。経営者として、就労で、体験として、家庭菜園として、研修で、学校教育で、高齢者や障がい者の福祉の目的など、多様なかかわりを拡げていくことで、市民同士だけでなく、市民と農業者のコミュニティの場ともなりうる。
市民生活において、都市農地は「空気」のような存在であり、散歩コース、風通しのよさ、日当たりのよさなど、冬の土ぼこりを我慢すれば、まさに借景である。ところが、農地がなくなり様子が一変して初めて、恵まれていた住環境に気づくのである。
都市の農地を保全し、農業経営が継続されるためには、農地保全の価値を都市住民が認め、農業者が持続的に営農できる環境づくりを第一に、同時に都市の資産として活用できる方法を農業者と一緒に考えることが必要だ。