その人に合わせた生きるための支援と家族への支援

岩手県洋野町ひきこもり支援の居場所

「ひきこもり」とは、「仕事や学校に行かず、家族以外の人との交流がほとんどなく、6ヶ月以上自宅にひきこもっている状態」をいいます。
清瀬市では2017年の市政世論調査において「ひきこもりの家族がいるか」をきいたところ、回答者の3.6%の方が「いる」と答え、その当事者は10代から50代の全ての年代にわたることがわかりました。昨年、生活者ネットも関わった地域包括支援センターへの調査では、少なからず相談が寄せられている状況もみえています。
昨年視察した、岩手県洋野町(人口16,524人 高齢化率38.61%)で行われている家族と本人への支援について報告します。

●これまでの取り組み
2011年、東日本大震災後「がん検診未受診者及びこころの健康調査」から「気になる人がいる」との情報があり、近隣市の支援に入っていた精神科医の協力を得て家庭訪問による実態把握や相談を開始。ひきこもりの子どもがいることで外出できないため、受診できないケースがあることが判明。ただし、知らない人の突然の訪問にはなかなか応じてくれない家庭もあり。

2012年
精神科医による「ひきこもり講演会」開催
気になる人の家庭訪問と相談業務を精神科医、保健所、県ひきこもり支援センターで開始

2013年
明らかに介護保険サービスが必要にもかかわらず、利用を拒む夫婦が何度目かの訪問でひきこもっている40代の息子がいることが判明、家族全体の支援が必要との判断
精神科医、保健所、県ひきこもり支援センター、町社協、地域包括支援センター、福祉課で実施

2014年
国補助事業を活用し、ひきこもり対策推進事業を開始。各地区の民生委員へのアンケートから「社会的ひきこもりの理解と本人・家族支援のための事業報告書」(きっかけの3割以上が「職場になじめなかった」、40代~60代の半分以上が期間7年以上など判明)

2015年~
・調査結果を基に本格的に家庭訪問を開始
・支援者、市民向け講演会を毎年開催
・家族会「すずらんの会」を月1回開催。相手の意見を否定しない、守秘義務の徹底。参加人数は2~4名で参加者が固定しているものの、参加者は高齢のため、子どものことに限らず、体調や趣味のことなど話の内容は様々。顔を合わせることで元気な様子を確認し励みにしている。

2017年~
・当事者サロン年4回開催。相手の意見を否定しない、守秘義務の徹底、発達障がいや家族関係に悩んでいる方の参加もあり。「ひきこもりUX女子会」を参考に2018年に女性向けに独自に開催。

・就労先を拡大するため、町内の企業、商店を地域包括支援センター職員が訪問。個人商店を含む9社(職場体験のみを含む)が協力。理解して関わってくれる地元企業があることは心強い。

2018年~
NPO法人に事業委託。代表は元洋野町の保健師、スタッフは地域包括支援センターの元職員であるため、町と情報共有が円滑。以前赤ちゃん訪問で会ったことのある保健師がまず家庭に了解を取ることで、後日、精神科医と共に訪問しやすくなっている。
また、「社会的ひきこもりの理解と本人・家族支援のための事業報告書」を示し、「支援のために」と目的を伝えることで訪問の受け入れやすさにつながっている。
関わった方55名(男女比8:2)のうち、30名が支援に結びついた。
・7年以上ひきこもりだった方2名も就労。地域の企業や個人商店でも受け入れが必要と感じてくれている。受け入れ先からは、「育てるという思いをもって」とも聴くようになっている。大きな農園では、1対1で指導をしているが、「真面目な働きぶりで助かる」など、地元企業からの評価も高い。

●課題
・8050問題として親の健康問題、経済的な面からも早期支援が必要。親が生きているうちに親亡き後の連絡先を把握し、手続きにつなぐことができるようにしておく必要がある。
・精神疾患が疑われても受診しない人が多い。ひきこもりの長期化につながるため、病気に関する周知が必要。
・ひきこもりの支援機関は多様なため、各機関との連携による早期支援につなげることが必要。
・女性のひきこもりは表面化しにくいため、女子会の開催等、継続した支援が必要。
・回復に向け家族会や当事者サロンの存在が大きな役割を果たすため、参加してもらいやすくする工夫が必要。
・就労に向けて就労意欲が出てきた方のために、職種の選択肢を増やすために、協力企業を増やす必要がある。

●今後の方向性
・まだ、把握できていないひきこもりの方も含め、各機関が連携し、ひとりでも多くその人それぞれの生きるための支援と家族の支援につなげていくことが必要。
・不登校をきっかけにひきこもりに至るケースも少なくないことや、ひきこもり年数が長くなるほど支援に結びつけることが難しいことから、学校へのアプローチが大事だと感じている。教員や親が具体的なケースから支援の有効性をわかってくれることで、少しずつ相談が増えている。

 

具体的なケースをお聴きする中で、本人だけでなく家族も含め、的確な見立てによる早期支援、特に本人への支援は就労のみをゴールとしないことが大事であると感じました。