包摂する社会が危機にも強い
ジェンダーと貧困の問題は、深く関わっています。「この問題を解決することが成長戦略の要である 」という、 社会政策をジェンダーの視点から比較研究してこられた東京大学名誉教授経済学博士大沢真理さんの学習会を紹介します。
●災害 ・復興研究から
◇ 死亡率は女性の方が高い
◇性別分業が強化される。女性の無償労働の負担が増加
◇女性への暴力が増加するなど人権が守られにくくなる
◇一方で、災害リスクを軽減するうえで、普段のコミュニティを活かし、食料などの融通と相互扶助
●日本の生活保障システム (税、社会保障、雇用などの共助、自助)
◇ 男性稼ぎ主と専業主婦の自助を想定、長期雇用と年功賃金という会社限りの共助→妻子を扶養することを想定→女性が家事(夫のメンタルケアを含む)・育児・介護を担うことを想定
◇税・社会保障は男性稼ぎ主を優遇。年功賃金を前提にしているため現役世代への公助は貧弱。主婦が家事・育児・介護をするはずなのでワークライフバランス配慮も社会サービスも薄い
◇相対的貧困率が高く、就業貧困・共稼ぎ貧困 (正社員でも稼ぎ主になれない男性の増加)
◇働くシングルマザーの貧困率は OECD 諸国で最悪
⇒子どもを育てること、女性が働くことに、税・社会保障が「罰」を科している。人口減少社会として超不合理
●コロナで顕在化した日本の生活保障システムの脆弱性
◇コロナ禍で、闇雲に一斉休校・外出自粛→ひとり親や共稼ぎ世帯の稼得活動を困難に。失職・休業や所得低下は、子育て女性に集中
◇1990 年代後半から、感染症病床数・保健所数・保健所職員数・衛生研職員数を削減
⇒検査と保護(治療)により、経済活動はかなり維持できるにもかかわらず日本の PCR 検査数(100 万人対)は、 2022 年 3 月中旬まで、世界 223 の国・領域で 134 位
●97 項目の SDG s 目標を達成するまでの日本が特に遠い分野
◇5. ジェンダー平等
5-2 (親密なパートナーによる女性・少女への暴力の被害率)
5-4 (無償労働時間のジェンダー格差)
5-5.6 (国会・地方議会の女性議員比率、管理職の女性比率)
◇10 .不平等削減
10-1 (所得分布の低いほうから 40% の所得と平均所得の相対的伸び率)
10-2 (相対的貧困)
10-3 (雇用者報酬の対GDP比)
●年平均給与の実質値(2020 年の平均 =100)
◇2011 年(民主党政権下)107.5 から下がり続け ている
5人以上事業所・全産業の平均、決まって支給する給与(ボーナスを含まない)、1 か月以上雇用の非正規を含む
●感染症をネグレクトする保健医療政策
◇病院病床数と感染症病床数
1998年に伝染病予防法等を感染症予防法に改正→感染症病床と結核病床の削減。精神病床は全病床の 2 割を維持。2014 年からの「地域医療構想」で、2019 年に公立・公的医療機関 424 に「急性期の機能の見直し」を求めるが感染症を勘案せず
◇保健所法から地域保健法への改正(1994 年度)保健所の所管区域を広域化→統廃合を促す
保健所職員総数は11,000 人減少(薬剤師等 は 3,600 人増 、看護師は減少 。保健師は減っていないが非正規化( 特に女性、2018 年の非正規比率は 16% 、男性は 3.5%)。減少が大きいのは 一般職員 と診療放射線技師、臨床検査技師⇒公衆衛生は公助から自助共助に
●コロナ禍よりもコロナ対策禍
◇自殺: 2020 年は過去 5 年平均から女性で 347 人増、男性では 1053 人減
◇雇用と収入の減少:コロナ離職しやすかったのは、非正規、飲食・宿泊従業員(いずれも女性が集中する区分)。コロナ離職者の 6 割が再就職後に月収低下(一般離職者では 34%)
母子世帯:主食も買えないほどの苦境。小学生の体重が減った
●格差・貧困の削減こそが成長戦略のカナメ( EU: 成長戦略と福祉国家の現代化戦略が一体)
最低生活を保障することで人的資本の減耗を防ぐ 、「子どもへの投資」 、ボトムアップの経済学
●日本で貧困・格差をいかに削減するか 所得格差は経済成長を損なう
◇「人」への投資・多様性と「誰一人取り残さない」 、若者 ・ 子育て世帯の所得引き上げ 、女性の就労の制約となっている制度の見直し
◇貧困者の 4 分の 1 が高齢女性 年金に最低保障を
◇生活保護制度・児童扶養手当制度を受けやすく